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三章
翌日。
リヨンの足は動いていた。
何かに導かれるように、梅園へ向かっていた。
出会った男のことが忘れられなかったのである。
祭りは三日間続く。
今日も出かけるのかと父親は呆れていたが、母親がとりなしてくれた。意中の人ができたのだろうとほのめかされて、リヨンは友に誘われているのだとごまかし家を出た。
気がせいた。胸は高鳴り、軽い目まいまで襲ってきた。別段、約束をしたわけではない。だから、男が今日もあの場所にいるとは限らない。でも、わかっていても、行きたかった。
ただただ、人ごみに逆らうようにリヨンは進んで行った。
「あ、あの!」
はたして男はいた。
「……はぐれたのですか?」
昨日と同じように、優しく声をかけてもらえたことで、リヨンの足はすくんだ。
どうして、来てしまったのだろう。自分の中でうねりあがっていた心の波に気がついた。
自分は男を追ってきた。そんな初めての出来事に、リヨンはまごついた。
「い、いえ!!」
迷ってはいない。今日はすすんで、ここへ来たのだから。
さて、思わず自分のあげた声の大きさに驚き、うっかりとよろめいてしまった。そんな慌てふためくリヨンを見て男は笑う。
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