三章

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……そういえば、人を待っていると言っていた。まさか、一晩中待っていたわけではなかろうが、今日も同じ場所にいるということは、待ち人は……女ではなかろうか。 今は祭りである。その祭りを皆がどうして楽しみにするのか、意味合いはよくわかっている。 リヨンの顔から笑みが消えた。 「お疲ですか?」 男が、こちらを気遣っている。だが、これは……待ち人が現れるまでの退屈しのぎに違いない。 問われている事に、どう答えれば良いのだろう。 何かを期待していた自分が非常に恥ずかしいくなり、リヨンの目頭が熱くなってきた。 でも、涙をこぼすわけにもいかない。見苦しい姿は、見られたくない。 「茶を、ご馳走いたしましょう」 有無を言わさず男は踵を返し、梅園の奥へ進んで行く。 「あの、でも、どなたかを、お待ちになっているのでは……」 リヨンは男の後ろ姿に、すがるかのごとく問った。 「……待ち人は……現れましたから」 では――。 リヨンの胸の中で、纏う上着のごとく鮮やかな(ほむら)が立ち上がった。
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