シスター・リンダ

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「なぜ、って……」  アンリの言葉の意味が分からず、リンダは戸惑う。 「そんなの、当たり前のことではありませんか。アンデッドの討伐は、私たちエクソシストの使命。同様に力なき人々を救うのもまた、私たちの使命なのですから」 「……貴女ならそう言われるだろうなとは、思ってました。けど前に来た二人は違う。本当にアンデッドを倒すことしか考えていないような方たちだった……」  口調も苦く、アンリは言う。 「何を言っても『私には関係ない』、『それよりアンデッドはどこだ』、『お前たちのような凡愚を相手にしてなどいられるか』……そんなことばかり、言ってましたよ」 「そんな……」  リンダは絶句する。  エクソシストの中には、そう言った振る舞いをする輩もいると彼女は聞いたことがあった。法力という常ならぬ力を使えるといった特別意識が、そうさせてしまうのだろう。しかし、だからといって―― 「人を救うことだって、エクソシストの使命であるはずなのに……!」  実際にそういった行いをする者を見たという話は、リンダには衝撃だった。  そんなリンダに、アンリは苦笑いを零しつつ言う。 「まあ、そうはいっても何か酷いことをされたって訳でもありやせん。むしろアンデッド共を倒して頂けるだけでもありがたい話なんでしょう。でも俺は……俺達は……それだけで済ませてもらう訳には、いかなかったんです」  苦し気に表情を歪め、拳を握りしめるアンリ。しばらくそうしていた彼は、いきなり額を地面に叩きつけた。 「あ、アンリさん!? どうされたのですか!?」 「無理を承知でお願いします。どうか――どうか俺たちを助けて下せえ!」 「助ける、って……それは勿論、アンデッドたちを倒して……」 「奴らだけじゃないんです! 俺達の村はずっと、野盗に狙われてるんです!」  アンリ曰く、その野盗共はアンデッドが現れる前からここら一帯を荒らし回っているのだという。  アンリの村も、襲われたくなければ金品や若い娘を差し出せと何度も脅されてきたらしい。そしてそれは、今なお続けられているのだと。  その話をされたリンダは村の様子を思い返す。  確かに寂れた様子が至る所に見受けられたし、活気もなかった。アンデッドや戦争による影響かと思っていたが、まさか野盗まで関わっていたとは…… 「このままじゃいずれ、何もかもとられちまう時がくる」  悲痛な声で、アンリは続ける。 「村の人間全員が、村を逃げ出さなくちゃならなくなるでしょう。その前にどうか、どうか奴らを倒しちゃくれませんか!」 「そ、れは……わ、私一人では、なんとも……」 「勿論エクソシスト様お一人でとはいいやせん。けれどエクソシスト様なら、ウルスラ教会は勿論領主様といった偉い方々にも顔は利くでしょう? そういった方たちに話をつけては、していただけませんか!? 或いは、他のエクソシスト様たちを呼んでいただくのだっていい! ともかくあいつらを何とかしなけりゃ、俺達は……!!」 「……」  必死なアンリの訴えに、リンダは苦し気な表情になる。できることなら、その願いを叶えてやりたいとは思う。だが…… 「……話をつけることは……できると、思います」 「なら……!」 「でも、アンリさんの思うような結果には、多分なりません」 「どうしてですか!?」 「それ程に現在の状況は、悪いということなのです……」  村長に話した、アンデッドの動きが活発になっていること。更にハルモニア教国とユークス公国の双方は、戦争の長期化によって兵力の拡充に躍起になっていることを伝える。そしてこの地方の領主も、どちらかにつくことを迫られているのだと。  アンリは、愕然とした。 「そんな……それじゃあもう、領主様の兵士たちは……」 「どちらに付いたかまでは知りませんが、既に派兵の準備を終えていると聞いています……こちらに兵力を割く余裕など、恐らくないでしょう……」 「……! そ、それならウルスラ教会に……って、そう言えばアンデッドの動きが活発になってるって、さっき言ってやしたね……」 「今回の件でも、私以外にもう一人エクソシストが派遣される予定だったのです。しかしその者も、他の地域にアンデッドが現れたという知らせがあって来れなくなりました。……私も……アンデッド相手であればともかく、野盗が相手というのは……」  言い辛そうにしながら、リンダは言葉を続ける。  戦いの経験もアンデッドとのものばかりであるし、エクソシストの訓練にした所で、アンデッドを相手することに焦点を合わせたものとなっている。  どれほどの規模があるかも分からない野盗を相手にするのは、できる限り避けたいというのが本音だった。  アンリは俯き、唇を噛みしめる。次いで、絞り出すような声で「……仕方がないって、ことですか」と言った。 「俺らの村が、後回しにされるのは……」 「……アンリさん……」
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