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 街灯の白い光に羽虫が群がっていて醜悪だった。  けれど光に惹かれる気持ちはよくわかる。  俺も行けるものなら行きたい。光の当たる場所へ。  街灯に向けていた視線を暗い足元へ落として俺は、痛む足を引きずって、歩いた。  痛みは生きてる証だと誰かが言っていた。  痛いのは生きてるからだ。死んでしまえば痛みすら感じないんだぞ。  そんな胸糞の悪い言葉が耳に甦って、路面に唾を吐く。  死んで痛みがなくなるならば死にたい。  そう思ったことは一度や二度じゃない。でも死ぬ度胸すらなくて、三十の年まで生きてしまった。  クズの人生はまだ続くのだろうか。  先のことを思うと憂鬱で、また死にたくなってくる。  蹴られた場所が痛い。  くそっ、と悪態をついて痛む太ももをこぶしで叩いたら、脳天まで痛みが突き抜けて笑えてきた。  こんなに痛いのに心臓はなにごともないように拍動を続けるのだから、俺の中で一番ふてぶてしいのはきっとこの心臓なのだろう。  大通りに行きあたると、コンビニの看板がやたらと眩しく光っていた。  ポケットには財布がある。中身がいくら残っているかわからないけど、酒の一本ぐらいは買えるだろう。  そう考えながらふらふらとコンビニに引き寄せられていく俺の前に、不意に誰かが立ちはだかった。 「こんばんは、幸男さん」  夜よりも昼間の方が似合うあたたかな声が耳を震わせて、驚いて顔を上げる。  そこには、やわらかな笑みを湛えた男の姿があった。  初対面の頃から思っていたけど、こうして見るとやっぱりあの俳優に似てるな、なんだっけ、あの車のCMに出てる俳優……。 「幸男さん? どこへ行ってたの」  俺が阿呆みたいにぽかんとしていたからだろうか、そいつが怪訝な目つきになって整った顔を近づけてきた。  俺はそれをてのひらで押しのけて、そいつの名前を呼んだ。 「シーナ……」  椎名春幸。こんなイケメンに俺の名と同じ字が入っているのがなんだか笑える。  椎名の『幸』は、幸福の幸。  俺の『幸』は、きっと、不幸の幸だ。 「幸男さん」 「名前で呼ぶな」  吐き捨てて、椎名の脇を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。  きれいな目がこちらを覗き込んでゆっくりと瞬く。  俺よりも三つか四つ年下のこの男は、俺の友人でも家族でもなんでもない。  椎名は、俺の担当の相談員だ。  アルコール依存症の、この俺の。          
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