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0. 西の都の百薬長者
人間には魔法が使えない。魔法が使えるのは、魔力を身に宿した魔族だけ。
それは、人間が魔族たちを支配する側になった今でも変わることのない事実だ。
もし目の前に大怪我をして血を流している人がいたとしたら、私は間違いなく助けたいと思うだろう。
何か呪文を唱えたり、手を翳したりするだけでその傷を治すことができたなら、喜んでそうするはずだ。
でも、今の私にはそんな魔法のような力を使うことなんてできない。
だから、私は薬学を極めることにした。
人間は何の魔法も使えないが、学ぶ力ならある。
それは魔族とて同じことだが、生まれ持った魔力に胡座をかいている彼らとは違い、無力さを痛感しているからこそ必死で学ぶ。
だからこそ、人間は魔力をものともしない科学力を手に入れ、かつての力関係をひっくり返すことができたのだ。
そして、私も死ぬ気で学びを続け、薬の力で大抵のことは叶えられるようになった。
傷や病の治療だけでなく、肉体の強化、精神の操作、美容、害虫・害獣や魔族の毒殺……百を超える種類の薬であらゆる効果をもたらすことができる私は、人々から"百薬"長者と呼ばれている。
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