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次に向かったのは、街一番の大富豪・プラチナ卿の屋敷だ。外観はまるで一国の城のようで、主人であるこの街を統治する彼は実質的にここの王と呼べる存在だ。
巨大な門を守る門番に用件を伝えると、裏口へと案内され、別の使用人が出てきて広い庭を通って本館から離れた小さい建物の前まで誘導された。
「すみません」
煌びやかな装飾のドアをノックすると、中から筋骨隆々とした大柄な男が姿を現した。
ここの屋敷を警備する用心棒たちの長・Mr.ストロングだ。
「獅子牡丹3ダースを持って来ました」
「いつもありがとう少年。これ、プラチナ卿から預かった代金だ」
たくさんの硬貨が入った麻袋を受け取ると、その場で手のひらに出して中身を確認した。金貨が1、2……37枚ある。
「あの、金貨一枚多いですけど……」
「君の小遣いにしたまえ」
「こ、困ります……」
彼ら富豪からすれば端金でも、僕からすれば大き過ぎる金額だ。
「買いたいものを買うのもよし、将来のために貯金するのもよし。どう使うも自由だが、もしそのお金で剣でも買ったなら俺が稽古をつけてやろう」
「結構です!」
「待って、今日はランチを食べないのか?」
「お腹空いてないんで!」
僕は余分な金貨一枚を彼に握らせると、空っぽの薬箱を背負って逃げるようにしてその場を去った。
「君、足速いな。ますます薬屋にしておくのはもったいない!」
大きな声で呼びかけてきたけれど、僕は無視した。
彼は百戦錬磨の強者で、一目見ただけで相手の強さがわかるらしく、僕が隠し持つ人間離れした力も初見で見抜いてからは毎回用心棒にならないかと勧誘してくるのだ。
屋敷を後にしてしばらく走ると、僕は腹の虫が鳴ると同時にくらくらとして立ち止まった。
毎週初日の配達日は、ちょうどプラチナ邸で全部の薬を納品し終えるタイミングが昼時で、いつもならあの後主人の好意で本館に招かれてランチをご馳走になっている。
毎回絶品の料理が大量に出されるものだから朝食を抜いて来るのだが、今日は金貨一枚にびびって逃げ出してしまったから空腹がもう限界になっていた。
店に戻っても僕の分の昼食は用意されていないだろうけれど、もしかしたらと淡い期待を抱きながら僕は店へと帰ることにした。
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