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店へ向かう途中、僕は二人組の男が空の荷車を押しながら同じ方向へ歩いているのを見て咄嗟に身を隠した。
腰に帯びた剣、胸に輝く銅の勲章……世界最大の軍事国家・ルドベキア帝国で勇者の称号を与えられた者たちだ。
気付かれないように後をつけると、彼らは僕が帰ろうとしている薬屋の中に入って行った。
まさか、医師連盟があんな恐ろしい殺戮集団を差し向けてきたっていうのか? それとも、Ms.ゴールドが彼らを用心棒として雇うつもりなのか?
もし前者なら、これまで何度か得意の棒術で強盗を撃退したことのあるMs.ゴールドとはいえ勝ち目がない。だから、僕も戦わなければ……そう思い走り出そうとしたけれど、足が震えて動けなかった。
僕の家族や仲間たちを殺した奴らとは恐らく別人だけれど、同じ国からやって来た、同じ勇者の肩書きを持つ人間だ。
どうすることもできず、店主の無事を祈りながら見ていることしかできなかったけれど、しばらくすると二人組の勇者は大量の薬が入っているであろう大きな木箱を積んだ荷車を押して店から出て行った。
「いつもありがとうございます」
玄関先まで出てきたMs.ゴールドは、僕が持ち帰った代金の何倍もの硬貨が入っていそうな大きな麻袋を片手にお辞儀をして勇者たちを見送った。
その時、彼らがうちの薬屋の売上にかなり貢献しているお得意様なのだと初めて理解した。
あの箱の中身は獅子牡丹に違いない。きっと、僕が勇者に滅ぼされた一族の末裔だから、Ms.ゴールドは僕が配達に出かけていて店にいない間に毎回取りに来てもらっていたのだろう。
今日はいつもよりかなり早く帰って来たせいで彼らの姿を見てしまったけれど、顔を合わせないようにしてくれていた彼女の配慮を知って涙が出てしまった。
薬で変えられたこの人間の姿だって、
今このタイミングで帰ったら、勇者の来訪を見たことを悟られてしまうだろう。
僕は空腹なんてどうでもよくなり、プラチナ邸でランチをご馳走になったことを想定して時間潰しのために街をぶらぶらと歩くことにした。
「あの……」
目的地があるわけでもなくただ街並みを眺めながら彷徨っていると、突然誰かに声をかけられた。
振り向くと、そこには朝見かけたボロボロの服の少女が立っていた。
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