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苦くて甘い贈り物
「ええ~!オーケストラ部なんですねぇ~、楽器はなにされてるんですか?」
北川久実は、瞳をきらきらと輝かせて前のめりに聞いてきた。
「実は、ヴィオラっていう楽器なんですけど...ご存じですか?」
「えっと...ごめんなさい。聞いたこともなかったです..,」
彼女はしょぼんと俯いてしまった。
「いやいや!知らない人多いですから!気にしないでください!」
僕は、なぜかこちらが悪いような気がして、すみませんと謝った。
彼女はくすりと笑みをこぼした。
「今日家に帰ったら、調べてみますね!コンクール?みたいなのは
あるんですか?」
「はい、年に二回ほど。次は来年の夏ですね。」
「行きたいです!日時わかったら教えてくださいね?」
彼女は慣れているのか、天然なのか上目遣いでそう言った。
(うっ... 可愛い...)
嬉しいけれど、なんでこんなに興味を持ってくれてるんだろ?
こんななんの取り柄もない面白くもない僕に対して。
僕は少し疑っていた。
生徒手帳の一件以降、僕たちはバスのなかで話す仲になった。
まだ彼女の目を見て話せなかったり、脳をフル回転させすぎて
朝の通学だけでエネルギー切れになったりはしているが。
それでも十分幸せだった。
「次は~シャルロット校前~、シャルロット校前~」
運転手さんが眠たそうな声でアナウンスした。
「あ、私行きますね。それじゃあまた。」
「はい、また。」
微笑みながら手を降って、バスを降りていく彼女に対して
できる限り頬を緩ませないよう、手を振り返した。
一瞬外の寒い空気がバス内に入ってきた。
久実さんも寒そうに赤いマフラーに顔を埋めながら
学校へと向かっていった。
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