きっかけは落とし物

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ある時、僕がバスに乗って、高校に着くまで、窓の外をボーッと 眺めていると、停留所で、お腹の大きな妊婦さんが乗車してきた。 あいにく出勤ラッシュと重なり、バスの座席は埋まっていた。 妊婦さんはバスの中央部のつり革に捕まった。 (こんな朝早くからどこへ向かうんだろう) そんなことを考えていると、前に座っていた彼女が、 「この席どうぞ」 優しい声とふわりとした笑顔で妊婦さんに席を譲ったのだった。 「あ、ありがとうございます」 一瞬驚いた顔で、返事をして彼女のそばで 「助かりました」 と再度お礼を述べたのだった。 またある時は、同じ停留所で降りるおばあさんの降車を手伝っていた。 「迷惑かけちゃって悪いねぇ」 「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ」 と誇らしげでもなく、至極当然のように 彼女は、柔らかい表情で話していた。
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