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それから生徒手帳の存在を忘れかけていた十二月の中頃、
彼女は現れた。
いつもの座席に、赤いマフラー
間違いなく彼女だった。
(生徒手帳を渡さなきゃ!)
そう思い、乗車口からいつもの席に向かおうとした瞬間
足がもつれ、僕はその場で転んでしまった。
一瞬何が起こったのか全くわからなかった。
視界には、心配そうにこちらを見る乗客。
バスの運転手さんからは、
「大丈夫ですかー?」
と少し棒読み気味な声が車内に響いた。
さっと起き上がり、席に足早についた。
穴があったら入りたいとはまさにこのことだった。
右の頬がヒリヒリしていた。手で少し触ると
血が出ていることに気づいた。
また鉄のような臭いが鼻をついた。
(鼻血も出ているのか...最悪...)
運転手さんが続けて
「出発しまーす、お立ちの方は揺れますのでご注意願いますー」
とアナウンスした。
これほどこの言葉が自分の心に刺さる日はなかった。
顔を真っ赤にして、恥ずかしい思いでいっぱいに
なっていると前から
「あの、大丈夫ですか...?よかったら、これ使ってください。」
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