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今にも雪が降りそうな、一月三日の昼過ぎ。環摩莉子は厚手のカーディガンを羽織りサンダルをつっかけると、マンションの一階にある郵便ポストに足を向けた。
白い息を吐きながら、ポストの扉を開け、緑の輪ゴムで束ねられた年賀状を手に取る。見たところ、十枚は無い感じだ。SNSの普及で年々年賀状が減っているというが、摩莉子も同じだった。
「寒いさむい……」と躰を縮め小走りで部屋に戻り、年賀状の輪ゴムを外した。
十年以上、年賀状のやりとりしかしていない相手もいるが、肉筆で一行でもコメントが書いてあると、嬉しいものだ。当時の面影が目に浮かぶ。
懐かしくほっこりした気持ちで、一通づつ目を通していたが、ある葉書に目を止めると、摩莉子の顔から笑顔が消えた。
家族写真が印刷してある、よくある年賀状だが、妻が赤ん坊を抱いているのを見て、暗澹たる気持ちになった。
気分を変えようと摩莉子は、ベランダの窓を開けて、深呼吸しながら空を見上げた。冬の空を真鱈雲が低く覆っている。
あの日もこんな空だったなと、摩莉子は一年前のことを思い返した。
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