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 披露宴の翌週の週末、摩莉子は陽子をお茶に誘った。池沢への結婚祝いの相談との口実だ。悲しい事故を乗り越えた後の再婚なので、池沢をお祝いをしたい気持ちに嘘はないが、半分は、陽子から千里のことを聞き出すことが目的だ。摩莉子は陽子に対して後ろめたく思ったが、それよりも、千里への疑念を確かめたかった。  お祝いの品の候補も決まり、摩利子はそれとなく、本題に水を向けた。 「千里さんて、池沢さんの昔からの知り合いだったんですね。幼なじみとかですか?」 「大学から友達みたい。池沢君と、亡くなった綾乃さんと千里さんは、大学の同じサークルだったと思うわよ」 「そうなんですね。仲良し三人組だったのか……」 「池沢君の初婚のとき、環さんと二人で池沢君の家に行ったじゃない。四年くらい前?」 「ええ、お祝いに」 「そう。あの頃も千里さんはしょっちゅう、あの(ウチ)に遊びに来てたみたいよ」 「そうなんですね。川嶋さん詳しい……」 「まあね。当時池沢君が、千里ちゃんが来てくれるから綾乃が寂しくなくて助かるっていってたのよ」  池沢の会社は食品関係の専門商社で、池沢はバイヤー担当だ。食材の買い付けなどで、年の半分以上は、国内や海外に出張している。池沢は綾乃と結婚してからも、仕事で留守がちだった。 「そっかあ。慣れない育児で一人じゃ、綾乃さんも心細いですよね。池沢さん、たしかに助かりましたね」 「ねー。ただ、まさか二人が結婚するとはね。綾乃さんとお子さんが亡くなったあと、千里さんが支えてくれたみたいだし、情が移ったのかなあ」  陽子が「男と女はわかんないものねえ」と、つぶやいたとき、店内にガチャンと器の割れる音がして「きゃっ!」と女の声がした。  二人が驚いて目をやると、店員が運んできたカップを客のテーブルに落としたようで、店員が慌てた様子で謝っていた。 「やだあ、大丈夫かしら……」と陽子は摩莉子に向き直り、ティーカップを口に運んだが、思い出したように「そーいえば……」といった。 「環さんと池沢君の家行ったとき、私安全ピン踏んづけて痛かったのよね」 「え、そんなこと、ありました?」 「あったわよ。たしか、綾乃さんが、プレゼントしたベビー服を赤ちゃんに合わせてみるって言って」 「あ、そうですね」 「そう。それで私もベビーベッドの方に行ったとき、足の裏がチクッてして、なにかと思ったら、ホットカーペットから針が出てたじゃない」  摩莉子は思い出したように頷いてみせたが、そのとき自分は、綾乃に憑いた生霊を霊視していたのだと気がついた。そのため、陽子が針を踏んだことを覚えていなかった。 「それでラグをめくってみたら、安全ピンが出てきて、池沢君に、赤ちゃんに危ないからって、私注意したもの」 「そうでしたね。でもなんでラグの下に安全ピンなんか……」 「うーん、わからないけど。引っ越しってバタバタするから、紛れたんじゃないの?」 「災難でしたね川嶋さん」 「ねー。でも綾乃さん優しいから、お詫びにってアロマオイルを一瓶くれたのよ」 「そうなんですか?」 「そうよ。池沢君がわざわざ会社に持ってきてくれて。家事で手が荒れるし、赤ちゃんにも使えるって、千里さんがお祝いに沢山くれたからって。綾乃さん、優しい人だったね……」  その後二人は、別の日にお祝いを買いに行く約束をして別れた。
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