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 陽子と別れて帰宅した摩莉子は、すぐにパソコンを立ち上げた。陽子の話を聞いて、いくつか気になることが湧いてきたからだ。  引き出物が入った大きな紙袋から座席表を取り出し、高砂席(たかさごせき)右側の新婦の招待客の座席に目を落とす。  新婦の千里の主賓は会社の上司で、事業部長の役職と名前が書いてある。会社は大手の総合電機メーカーだ。摩莉子は、千里の勤務先のホームページにアクセスした。千里の会社の女性がスピーチで、千里の仕事は製品検査と言っていた。組織図のページを開き、品質管理部という部署に目を止めた。就活生向けの事業内容を読んだところ、自社製品の安全性や品質管理を担う部署で、品質管理部の検査を経た製品は、経済産業省の適合性検査を受けて、適合証明書を取得してようやく市場に出せることがわかった。 「電気用品安全法か……」  独り言をつぶやき、関係団体の財団法人の公式ページをクリックした。関係者向けの説明はよくわからないので斜め読みをしていると、ページの左下に、”事故情報データバンク”という関連リンクを見つけた。クリックしてみる。  トップページに、”生命・身体被害に関する「消費生活上の事故情報」を公開しています”と説明が書いてあり、ページ左側には、 ”全ての対象物(792)” ”食料品(0)” ”家電製品(409)” などと、検索対象の種類と事故情報の掲載件数が書いてある。  家電製品で検索してみようと思ったが、検索するまでもなく、トップページの上のあたりに、こう書いてあった。  検索結果: 792件中 1 - 10件目を表示  検索条件: フリーワード = 暖房、温風,、炬燵、こたつ、電気カーペット、電気マット……  今は一月だ。おそらく、季節がら事故が多い暖房器具に関する情報を、トップページに載せているのだろう。  摩莉子は、”電気カーペット”という単語に目を止め、マウスを持つ右手の動きを止めた。  たしか出火原因は、電気カーペットの電熱線がショートしたことだった。  火事の後、摩莉子や陽子は、警察から事情聴取を受けていた。事故扱いではあったが、事件性がないことを調書に書く必要があるのでと刑事は断りを入れ、摩莉子に当日のアリバイや池沢との関係を色々と質問した。そのやりとりの中で刑事が、電気カーペットから出火したと言っていたのだ。  摩莉子は、”電気カーペット事故の事例”というリンクにマウスカーソルを合わせ、マウスの左ボタンをクリックした。  開いたページには、発火事故の事例がいくつか紹介してある。その中の一つを読み、摩莉子はハッと息を呑んだ。
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