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事故情報データバンクを調べた数日後、摩莉子は有給休暇を取って、綾乃のお墓参りに訪れた。この日は綾乃の月命日だ。
事故事例に目を通した摩莉子は、自分が抱いた疑念に確信を得ていたが、あくまでも仮説に過ぎない。綾乃の霊と会話をしてみようと考えたのだ。
献花とお線香をお供えし、摩莉子は墓前でしばらく手を合わせた。綾乃の霊と交信しようとしたとき、近くに人の気配を感じた。顔を上げて目を向けると、すこし離れたところから、二十代くらいの女性が摩莉子を見ていた。右手に献花を入れた手桶を下げている。
女性が池沢の妹だとわかり、摩莉子は腰を上げて会釈をした。
披露宴で、千里が綾乃に憑いていた生霊だと気づいた後、摩莉子は、家族席に憮然とした表情で座る若い女性を見かけていた。お祝いの席で浮かない顔をしているのが気になり、自分のテーブルに戻ってから座席表でたしかめ、池沢の妹だと知った。
「こんにちは。池沢さんの妹さんですよね? 以前、お兄さんとお仕事をご一緒していた環です」
「あ、兄がお世話になってます。妹の春香です」
春香はすこし驚いた様子だったが、摩利子に丁寧に頭を下げると、摩莉子の方に近づいてきた。
「環さんたしか、披露宴にいらしてましたよね」
「ええ、よく覚えて……」
「環さんが高砂席で兄とお話しているところを見かけて、綺麗な人だなって思って」
にこりと微笑む春香に、摩莉子はなんと返せばよいかわからずに、黙って微笑んだ。
二人は一緒にお墓の掃除と供養をして、寺務所に併設のレストランに場所を移した。
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