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 お互いに簡単に自己紹介を終えると、摩莉子は春香に気になっていたことを訊いた。 「春香さん、披露宴のときあまり嬉しくなさそうに見えたんだけど、わたしの気のせいだったらごめんなさい」  春香が驚いたように、束の間摩莉子の目を見る。テーブルの紅茶を引き寄せ一口飲み、こういった。 「わたし、お義姉(ねえ)さんのことすごく好きだったけど……千里さんは……」  春香は摩莉子から目を逸らし、顔を左に向けると、窓の外の枯れ木をしばらく見ていた。木枯らしに吹かれた枯れ葉が、かさかさと揺れている。  摩莉子は春香が何か言いたそうなことを察したが、初対面の自分に話すべきかどうか、考えあぐねているように見えた。摩莉子も紅茶を飲み、窓の外を見ていると、春香が話を続けた。 「千里さんは、ずっと兄を好きだったんです。兄のどこが良かったのかは知らないけど、大学のときからずっと」 「そうなんだ……」 「はい。でも兄は義姉さん、綾乃さんが好きで、綾乃さんも兄を好きで」 「お二人、お似合いだったものね」  春香が二、三度うなずく。 「兄が綾乃さんと付き合いだしてからも、千里さんは兄に告白して、兄が振ってるんです。あ、わたし喋りすぎですか?」  摩莉子が顔を左右に振ると、春香は安心したように続けた。 「まだ兄と綾乃さんが結婚する前、わたしと千里さんと四人で食事したんです。兄が報告があるって私たちを誘って」 「うん、それで?」 「その報告が綾乃さんの妊娠だったんです」 「そう……でも、それって千里さんには酷な報告だったんじゃ?」 「わたしもそう思って後から兄に言ったら、千里はわかってくれてるから大丈夫だって。そんなわけないって思ったんだけど……だって、綾乃さんが妊娠したって聞いたときの千里さんの目、ゾッとするほど怖かったんです」  摩莉子は生霊として現れた千里を思い出し、鳥肌が立った。産後、綾乃が体調を崩したのも、おそらくは千里の怨念だろうと、摩莉子は確信した。 「二人が結婚してからも、千里さんはしょっちゅう顔出してて、わたしは、やんわり断ったらって言ったんだけど、二人ともお人好しで、助かってるって。千里さん、兄を諦めてなかったと思う……そしてついに結婚しちゃいましたけど、わたしは……綾乃さんがよかった……」  春香は涙を溜めて、ごめんなさい、と顔を伏せた。
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