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「アヤト、お前やっぱいい奴だな。こんな東京の片隅でくすぶってんのがもったいねぇくらい。秋田に帰っても元気でやれよな。親父さんの跡を継いで、大切な店を長く続けられるようがんばれよ」
「ありがとな。言われなくても、そのつもりだよ。お前もさ、もし公演とかで秋田に来ることがあったら、俺の店寄ってくれよな。車なら出すから」
「ああ。今よりも数倍人気の劇団になって、全国を回れるようにがんばるよ」
「まあ、そのためにはまず新作を書かなきゃいけねぇんだけどな。去年の公演が終わってからお前ずっと充電期間だって言ってたけど、もう満タンになっただろ。いい加減新しいの書き始めろよ」
「ああ、分かってるよ。もうちょっと休んだらすぐに書き始めるから」
「まったく」
新星が悪びれもせずに笑ってみせるから、綾人もため息の代わりに笑みが漏れてしまう。振り返るといつの間にか空は深い藍色になっていて、夜明けはすぐそこまで近づいてきていた。
完全に明るくなった頃、綾人は東京を発つ。だけれど、今はもっと新星といたいと感じていた。このかけがえのない時間を大切にしていたい。
「そういやアヤト、新幹線何時だったっけ?」
「六時三二分だよ」
「そっか。じゃあ六時に家を出れば間に合うな。どうする? ここらでちょっと仮眠でも取るか?」
「いや、それだと昼までコースになっちゃうだろ。まだあと一時間ぐらいあるんだしさ、もう少しゲームやってようぜ」
「そうだな。じゃあ三年決戦でいいか?」
「ああ。それで頼むわ。まあどうせ俺が勝つけどな」
「いやいや、今度は俺が勝つぜ。ダブルスコアでリベンジしてやる」
「どうだか」
二人はあらかじめ設定されていた三年モードを選んで、遊び始めた。ゲームはさくま社長を含めた三人全員が東京から出発する。所持金は一億円。現実とは違って、スタートラインは全員同じだ。
「また二人でこうやってゲームできたらいいよな」
「当たり前だろ。今じゃオンライン対戦もあるんだし、リモートも発達してるんだから簡単だよ。どこにいても俺たちはゲームで繋がれんだから」
「いい世の中になったよな」
「まったくだよ。まだ色々大変だけど、こんな世の中も悪くねぇ」
二人は目的地の広島を目指す。妨害カードを手に入れた新星は、さっそくアヤトの進路を塞いだ。
「あっー! てめぇいきなりうんち置いてんじゃねぇよ! 俺動けねぇだろうが!」
「言っただろー。ダブルスコアでリベンジしてやるって」
最後の缶ビールを飲みながら二人はゲームに熱中する。もうすぐ終わる時間を一分一秒、綾人は大切に噛みしめていた。
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