さよなら東京

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「やっぱお前いい奴だな。俺にはとても真似できねぇよ」 「別に真似する必要もないんじゃねぇの。お前には俺にない諦めの悪さがあるわけだし。あっ、次の目的地渋谷だってよ。シンセ上手くいけばゴールできんじゃねぇの」 「ちょうど三が出さねぇと無理だけどな」  綾人に続き、さくま社長も行動を終え、ゲームはいよいよ新星の最後のターンになった。新星はグルグル回るサイコロを祈るような目で見つめてから、ボタンを押す。  出た目は三。  六分の一は奇跡と呼ぶにはあまりに大きい確率ではあるが、綾人は自然と両手を振り上げていた。これからも東京に留まる新星を励ますような出来事が、自分のことのように嬉しかった。  新星ははじめ動揺していたが、すぐに右のこぶしを突き上げていた。そのまま二人はハイタッチをする。乾いた音が、夜更けのアパートにこだまする。 「やったじゃん、シンセ。勝てなかったけど、ハッピーエンドだ」 「まさか、こんなことが起こるとはな。できすぎててちょっと怖ぇわ」 「ゲームの神様が、絶望的な状況でも勝負を投げ出さなかったお前に、ご褒美をくれたんじゃねぇの。ほら、進んで進んで」  駒である赤い列車が進むのを、二人は「一、二、三」と数えながら見守った。ファンファーレが鳴り、喜ぶ住民たちの姿が映される。  新星に与えられた数百万円の賞金をもってしても、状況は変わらないし、物件も一件も買うことはできない。だけれど、部屋の中はまるで春を迎えたかのような暖かさに満ちていた。終わりよければ全てよしという言葉を綾人は実感する。  夢は叶わなかったけれど、それでも無二の親友と。こうして東京最後の夜を楽しく過ごすことができている。それだけで秋田に帰っても生きていけると感じていた。
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