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「大体もう分かるけど、結果発表は飛ばさずに全部見ていいよな?」
「ああ、頼むわ。どうせ最後なんだしな」
画面には各地の名物をモチーフにしたキャラクターたちが次々と登場して、結果発表の映像を盛り上げている。ビールを傾けながら、二人はテレビに見入る。
まず新星の赤い列車が脱落して、次にコンピューターである、さくま社長の黄色い列車が脱落した。そして、綾人の青い列車が華々しい音楽とともに、大々的に迎えられる。
「おめでとう! みやけ社長!」との文言に、綾人は計り知れない優越感を味わった。
「おめでとう、アヤト。ぶっちぎりの一位じゃん。最後にいい餞になったな」
「餞別にしてはしょぼすぎるけど、それでも勝ててよかったわ。いい気分のまま、東京を後にできそう」
「いや、本当におめでとう。ブラボー! 素晴らしいよ」
新星は大きく手を叩いていた。ぐっすり眠っているであろう、隣の住人にも聞こえそうな音量だ。
「確かに勝てたのは嬉しいんだけどさ、そこまでする? たかがゲームだぜ?」
「いや、お前が東京で過ごした月日と積み重ねてきたがんばりにおめでとう。一〇年間よくがんばったよ」
「何それ、嫌味? こっちは何も持たずに東京に出てきて、何も手に入れられないまま秋田に帰るんだぜ。劇団を始めたはいいものの、七年間ずっと鳴かず飛ばずで。他にしてたことといったらバイトぐらいじゃねぇか。全くおめでたくねぇ、よくあるパンピーの生活だよ」
「でも、犯罪を起こしたり、警察沙汰になったりはしなかったから上出来じゃねぇか。それにさ、俺はお前が羨ましいよ」
「羨ましい? どこがだよ。夢を追うのを諦めて、東京をドロップアウトする人間のどこに羨ましがる要素があるんだよ」
「ちゃんと夢を諦められるとこだよ。お前だって見てきただろ? 今に菊田一夫演劇賞や岸田國士戯曲賞獲ってやんだって、俺らよりも一回りも二回り上の大人たちが息巻いてはくすぶっていくのを」
「まあ何人かの顔は浮かぶな」
「だろ? もちろん遅咲きタイプの人もいるにはいるんだろうけど、そんなのさらに一握りじゃん。四〇にもなって一〇〇人も入らないような小劇場で、内輪ノリでしかない演劇やってる人間にはなりたくねぇなってお前、よく言ってたじゃんか」
時計は刻々と時を刻み、新幹線の出発時間が近づいてくる。オープニング画面に戻ったゲームは、明るげなテーマソングを垂れ流していた。
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