さよなら東京

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「社長のみなさーん! 四月ですよー!」 「何言ってんだよ、シンセ。とうとうヤケになったのか?」  三宅綾人(みやけあやと)は苦笑した。八時間ぶっ通しでゲームをやっているから、横にいる相手はついに壊れてしまったのだろうか。だけれど、隣に座るジャージ姿の男は、へらへらと缶ビールを口に運ぶ。 「別にいいだろー。もう最後の二〇年目なんだからさー」  コトンと床に置いた音からして、缶はもう空になったらしい。筑前新星(ちくぜんしんせ)は、上機嫌に胡坐を搔きながら言った。 「そんなこと言ったって、お前ぶっちぎりの最下位じゃねぇか。俺よりも五〇〇億円も負けて、さくま社長にだって二〇〇億円も負けてんじゃねぇか。あと一年で逆転できるもんかよ」 「しょうがねぇだろ。ずっとキングボンビーに憑かれてたんだからよ。それに、まだ何があるかなんて誰にも分かんねぇだろ。もしかしたらスリの銀次が現れて、お前の有り金全部奪っていくかもしれないんだしさ」 「そうなったらいいよな」 「ほら、みやけ社長早くしろよー。お前の番からだろ」 「分かってんよ」  笑いながら綾人はコントローラを操作する。スペシャルカードを使う素振りを見せると、新星は慌ててみせた。夜を徹してずっとゲームをしているというのに、新鮮な反応が綾人にはおかしい。  あざ笑うかのようにスペシャルカードを使い、ちょうど目的地の新潟駅に入った。ファンファーレが綾人の青い列車を迎える。  新星は悔しさを通り越して笑ってさえいた。缶ビールを四杯も開けて、したたかに酔っているらしい。それでも不機嫌にはなっていないから、一緒にゲームをするにはこれ以上ない相手だった。
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