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見える洞窟の岩肌は、差し込む朝日に照らされている。
ケイは探るように当たりを見渡した。
隣りにジンの姿はもうない。
(……行ってしまわれた。)
しかし、肌にかけられた衣には、彼のぬくもりと優しさが染みていた。
そっと衣に顔を埋め、昨夜の余韻を確かめてみる。
たちまち得も言われぬ喜びと甘美の波に包まれた。
最初で最後のときめき。
たった一夜の出来事も、ケイには千夜の交わりに等しかった。
……駆けた。
ケイの体の中を、血が逆流するかのように何かが駆け抜けた。
小さな、とても小さな何か。木漏れ日のように柔らかな……思わず守りたくなる、何か。
「いいね。明日を信じて生きるんだ。そうすれば、また会える。麒麟は、正道が開かれる時に現れるもの。私が現れることができるよう、しっかり……、子を育てておくれ」
ジンの言葉が脳裏をかすめる。
もう、自分は一人ではないのだと、ケイは微笑んだ。
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