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作り笑いのボク
いざスマホ屋に来てみるとコソッと母親に耳打ちされた。
「スマホを買ったあとのケースは持ってきてるの?」
「うん、キャラクターのやつ」
「・・・」
やっぱりいけないことなんだ。
契約をして後ろの席にいた母がうんざりした顔で口を挟む。
「手帳型買うよ。いいやつ見てきてよ」
でも今は契約の説明途中で席は立てない。
「後で見てくるから」
「今、見てきてよ」
「え・・・」
うんざりした顔でじっと私をみつめる。
「説明が終わったらね」
母はいてもたってもいられず勝手に席を立ってケース売り場に行ってしまった。
やっぱり伝えられないな。
ケースも親に勝手に選ばれて勝手に気に入られた。
家に帰ってからも何度も
「このケース似合ってるわよね。サキちゃんらしいし、女の子らしいしねぇ」
私らしいとはなんだろう。
私はこんなスマホケース嫌だ。
そんなこと何回も訴えた。
女の子らしいなんて嫌だ。
ボクは私じゃないんだ。
少し曖昧になってしまったが私はトランスジェンダーだ。
ほんとは心の奥では男子でありたいと思ってる。
ボクはボクでいたい。
ボクであるってなんだろう。
でも期待は裏切らない方がいい。
母は褒めていると思っているんだろうな。
その思い込みひとつで言葉はナイフになるというのに。
ほら、今日も作り笑いのボクが私になっていく。
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