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「み、なみくん...?なに、...どういうこと」
「え?ああ、うん。里見くんびっくりしちゃったね」
「は...、なに..、ほんと」
ふざけた雰囲気など一切出さずに何をしているんだと改めて尋ねてみるが、南はふざけたような声色で言葉を紡ぎ歯を見せて笑う。
この場に似つかわしくないその笑みは気味が悪くて、俺はもう何を言ったら良いか分からず口を噤んだ。
「ごめんね里見くん。俺もずっと我慢してきたんだけど、今日は我慢できなくなっちゃって」
少しの間沈黙が続いた後、南は俺の頬に手を添えてそんなことを言う。
俺は突然のぬくもりに肩がびくりと震え、個室の中で拘束されていることも相まり言葉を発することができない。
...我慢ってなんだ?
俺に対してこんな態度を取ってくることを指しているのだとしたら、本気で気持ち悪い。
「とりあえず、退いて。...もう俺みんなのとこ戻るし..」
今まで南のことはただの鼻につく良い奴だと思っていたが、こんなやばい側面も持ち合わせているらしい。
元々南にあまり良い印象を抱いていなかった俺は、そんなやばい奴なら尚更関わることは避けたいと心の底から思った。
未だに頬に添えられたままとなっている手を払うように退かし、個室の鍵を開けようと手を伸ばす。
しかしそれも、目の前の南によってすぐに阻まれた。
「何してるの、だめに決まってるでしょ。せっかく里見くん独り占めできたんだから、もう少し付き合ってよ」
「...は?さっきから何言ってるの、ほんとふざけないで...」
「ふざけてないよ。ずっとずっと近くで見たかったんだ」
南はそういって、恍惚な笑みを浮かべる。
それは今まで見たことのない表情で、俺は無意識に壁際へと後ずさった。
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