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諏訪と過ごすはずだった土曜日、俺は一人出掛けていた。
ヒロはいつも「誕生日プレゼントなんていらない」と言うが、今年こそはちゃんと何かしら形に残るものをあげたい。
高校生になりバイトもしているし、やっと自分で自由に使える金も増えてきた。
再来週には諏訪とヒロと3人で会う約束をしているから、その時に喜んでもらえるプレゼントが渡せたら俺も嬉しい。
そんなことを考えながら、今隣にいない存在に「薄情者」と心の中で勝手な悪態をついた。
••••••••
「こちらのラッピングでよろしいでしょうか?」
「ああはい、大丈夫です。よろしくお願いします」
「かしこまりました」
普段あまり入らない時計屋で、俺は少し緊張しながら店員が作業している姿をカウンター越しに見守る。
ヒロはいつも腕時計をしているが、それがもうボロボロだった。
そんなに毎日使うものならプレゼントとして贈っても実用性があるだろうと考え、僅かばかり奮発して選んだ品だ。
...喜んでくれると良いな。
大切な友人の喜ぶ姿を想像すれば自ずと笑みが溢れてしまい、俺は咄嗟に表情を引き締める。
一人で笑ってるやばい奴だと思われたくない。
「お待たせいたしました。こちらになります」
「あ、ありがとうございます」
「お誕生日プレゼント、きっと喜んでくださいますよ」
「...はい」
店員の微笑ましそうなものを見る視線に照れ臭くなりながら、俺はそそくさとその場を後にした。
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