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気晴らしに少し時間を潰すつもりが、色々考えていたらコーヒー一杯で2時間も居座ってしまった。
ここに来た時隣に座っていた客もいつのまにかいなくなっていて、俺は慌てて荷物をまとめて外に出た。
外はもう夕焼けで、先程よりも帰路につく人たちで駅前は賑わっている。
俺もそろそろ帰るかと改札脇で鞄の中にしまったスマホを探していると、聴き慣れた声で名前を呼ばれた。
「旭」
その声に咄嗟に振り返ってみれば、そこにはヒロがにこりと笑顔を浮かべて立っている。
俺は驚きつつも、なんて奇遇なんだと思わず笑みが溢れた。
「どしたのこんなところで。つか一人?」
「え、ああうん。ちょっと買いたいものあって。ヒロは部活?」
「いや、塾のテストあってさ。その帰り」
俺は手に持っていた紙袋を後ろに隠しつつ、ヒロの言葉を聞いて納得する。
俺たちと違ってヒロはこの辺でも有名な進学校に通っている。
昔から勉強もスポーツもできて、おまけに性格も良いから、何故なんの取り柄もない俺なんかとここまで縁が続いているのかも不思議なものだ。
「何買ったの?」
「えっ...いやまあ、色々」
「色々ってなんだよ。まさか彼女にプレゼント?」
「....俺に彼女なんていたことないのヒロならよく知ってるでしょ。ほんと何でもないから」
ヒロの冗談に分かりきった答えを返してやれば満足そうに笑われて、「旭には俺がいれば十分だもんね」という相変わらずな言葉に照れながらも頷く。
「つか今日諏訪と出かけるっつってなかったっけ」
「あー...うん、その予定だったんだけど直前で別の用事できたらしくてさ。今日は一人だった」
「ふーん。まあそれなら二人きりで帰れるしいっか。旭ももう帰るっしょ?」
ヒロはそう言って自然な手つきで俺の腕を引くので、俺はそれに頷いて一緒に改札をくぐった。
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