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「旭、何かあった?」
「え...何で?」
「質問に質問で返すなよ。いやなんかあった感じの顔してるからなんとなく。俺の勘」
「...はは、そんな顔してないって。別に何もないし」
電車に揺られて窓の外を眺めていれば突然そんなことを尋ねられるので、俺は内心どきりとしながら笑顔を浮かべる。
昔からヒロは俺の些細な変化に気が付いて、割と大雑把で細かいことは気にしない性格の諏訪とは正反対だ。
「まあ言いたくないなら良いけど。悩んでることあるならいつでも聞くから」
「ほんと何もないって。でもありがと、すごい頼りにしてる」
「うん、俺旭のためなら朝でも晩でもすぐ駆けつけるよ」
「相変わらず大袈裟すぎだって」
今の俺にとってヒロの存在はかなり大きい。
高校が別になった今でもこんな俺を気に掛けてくれて、それだけで安心感がある。
次会う時はヒロの誕生日だ。
このプレゼントも渡して、普段伝えきれていない感謝も一緒に伝えよう。
俺はそれだけ考えて、少しだけ軽くなった気持ちに胸を撫で下ろした。
••••••••
「康平康平!これ一昨日言ってたやつ、持ってきたから読んでみて」
「え、ありがと。ほんとに持ってきてくれたんだ」
朝教室に入れば、諏訪の声が聞こえて無意識に視線を向ける。
そこには南の席を囲って楽しそうに騒いでいるみんなの姿があって、土曜日に南の歓迎会に行っていない俺はなんとなく疎外感に苛まれた。
いつの間にか諏訪も南のことを名前で呼んでいるし、あの様子からしてよっぽど楽しい会だったんだろう。
俺はその輪に加わるか悩んだ末、ちっぽけな意地を張って一人自席へと腰を落ち着けた。
「旭ー。なに一人で黄昏てんだよ、来たなら声掛けてくれりゃ良かったじゃん」
なるべくみんなの方を見ないようにして普段読まない参考書なんかに視線を落としていれば、いつの間にかやってきたらしい諏訪に声を掛けられる。
「ああごめん、おはよ。なんか邪魔したら悪いかなって思って」
「なに今さら、旭が邪魔になるわけないだろ。てか聞いてよこの前康平と遊んだ時さ」
諏訪はいつも通りの笑みを浮かべて俺の前の空いていた席に腰を下ろして、聞きたくもない「南くん歓迎会」であった話を俺にしてくる。
興味ないし話さなくて良いよと内心思いつつも、俺は笑顔を貼り付けてうんうんと相槌を打った。
「だから結構気合うわって思ったんだよね。康平見かけによらずかなりノリ良いしほんと最高」
「ああそうなんだ、良かったじゃん」
何が良かった、だ。
心にもないこともすらすらと口から出てくる自分の卑しさにも嫌気がさす。
しかしそれももう今更で、親しいと自負している間柄の諏訪にさえ本心を打ち明けられない自分が酷く惨めに思えた。
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