ささやかな変化

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「里見くん」 昼休みも終わり、次は生物の授業だ。 移動教室になるため俺が自席で教材やら筆記用具をまとめていれば、穏やかな声色で名前を呼ばれる。 「え、ああ。南くん。どしたの」 「ああいや、みんなと一緒に行くだろうと思って声掛けに来た」 「...そっか、うん。今行く」 南の言葉に教室の入り口付近に視線を向ければみんな俺を待っているようで、慌てて準備をして席を立つ。 移動の道中もやはり話されるのはこの前遊んだ時の出来事で、俺は気まずい気持ちになりながらみんなの後をついて行った。 「里見くん」 「え、うん」 「この前本当は諏訪くんと予定あったんだよね?あの日諏訪くんから聞いたよ。俺のせいでなんかごめんね」 まさか南にそんなことを言われるとは思っていなかったので、俺は思わずその表情を窺う。 ばちりと視線が合って軽く目を見開く南が見えて、そういえば今までずっと南と目を合わせる事がなかったなと自覚した。 「別に気にしなくて良いよ、...大した用じゃなかったしさ。南くんは土曜日みんなと楽しめた?」 「うん、楽しかったよ。前の学校ではあんまり友達と遊んだりもしなかったから、こんなに楽しいんだってびっくりした」 「そっか、それなら良かった」 まただ、何も良かったなんて思ってないくせに。 これは俺の口癖なんだろうか。 自分の相槌に微妙な気持ちになりつつ、南と会話をしていればいつの間にか教室についている。 俺はじゃあまた後でと声を掛けてから、教室とは別の座席が指定されている机へと腰を下ろした。
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