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家の前までやってきていつものようにインターホンを鳴らせば、ゆっくりと玄関の扉が開く。
そこからすぐにヒロが顔を覗かせるので、俺は少し荒んでしまった気持ちを奮い立たせた。
今日もヒロの家には誰もおらず、しんとした居間を抜けてそのまま2階にある部屋へと上がる。
相変わらず難しそうな本がたくさん置かれた部屋ももう見慣れたもので、俺は部屋に入るなり定位置に腰を落ち着かせた。
「ヒロ、誕生日おめでと」
「いえーいおめでとーう!」
「なんか面と向かって言われると照れるな。二人ともありがと」
俺はこの日を楽しみにしていた。
なんてったって、大事な友人の大事な日だ。
たぶん本人よりも楽しみにしていたんじゃないだろうか。
照れ臭そうに笑うヒロを見ながら、俺は鞄に仕舞っていたプレゼントを取り出す。
ヒロはそれを見て色々と察したようで、いらないって言ってんのに...と困ったように眉を下げた。
「ヒロがいらないっ言っても俺は渡したいの。はいこれ、俺と諏訪から」
「...諏訪も?」
「えっ...ああうん。そう、この前旭と一緒に選んだんだよ」
「...そうなんだ」
諏訪の反応にヒロは一瞬怪訝そうな顔をするが、それもすぐに俺へと視線が移される。
俺は期待に満ちた目でヒロを見つめ返して、早く開けてみてとせがんだ。
「...なに、腕時計?」
「そう、ヒロ今付けてるやつボロボロだったじゃん。どうせ贈るなら役に立つのが良いなって思って」
「...考えて選んでくれたんだ、嬉しい」
「まあね。ヒロにはいつもお世話になってるし、普段の感謝も込めて。なんて」
「まじでありがとう...めちゃくちゃ大事にする」
そう言ってヒロは箱から出したばかりの腕時計をすぐに付け始める。
普段は喜怒哀楽が見えづらいヒロも今は目元が緩んでいて、これは喜んでもらえたなと俺は嬉しさを噛み締めた。
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