766人が本棚に入れています
本棚に追加
/323ページ
それから他愛もない話をしたり適当な映画を観たりして過ごして、あっという間に日が暮れ始める。
しかし元々今日は気の済むまでヒロと遊ぶつもりだったため俺はまだ帰る気もない。
ベッドの上で寝転んでスマホを弄っていれば、隣で漫画を読んでいたヒロはおもむろに俺の肩を叩いた。
「どしたの?」
「んーいや、なんでも」
「あ、そろそろ帰って欲しいとか?」
俺を呼んでおきながらそれだけ言って終わらそうとするヒロに冗談まじりにそう伝えれば、まさかと笑われるので内心安堵する。
「そういえば諏訪遅くない?トイレ行ったきり帰ってこないじゃん」
「え?諏訪なら用事できたとか言って帰ったけど」
「は...?え、うそ。いつの話それ」
「1時間くらい前」
ヒロの言葉に俺は驚きのあまり言葉を失う。
スマホで集中してゲームをしていたとはいえ、一言声くらい掛けてくれても良かっただろ。
てかこんな夕方から用事って何だよ。
色々思うところはあれど、基本的に諏訪は自由人なためそういう奴なんだと納得する以外ない。
俺は軽く溜息をついてからまたスマホに視線を戻そうとすればヒロに腕を掴まれるので、今度は何だと再び視線を向ける。
「...諏訪帰っちゃって寂しい?」
ヒロは突然そんなことを尋ねてきて、口元は笑っていてもどことなく寂しそうな雰囲気を察して俺は首を横に振った。
「いや別に。いなくても俺気付かなかったくらいだし」
「...そっか、じゃあこの後は俺と二人きりで楽しもうな。誕生日に旭と過ごせるとか嬉しすぎるわ」
「いちいち大袈裟なんだって。大していつもとやること変わんないじゃん」
ヒロは普段はあまり笑わず、言葉数も少ない。
それでも俺に対してはこうして素直な気持ちを口にしてくれて、照れ臭いながらもその行為が嬉しかった。
俺もちゃんと見てもらえてる。認識してもらえてる。
いつの日か「俺のことなんて誰も見ていない」
などと自分に言い聞かせていたのが嘘であるかのように、ヒロといる時だけは孤独感が紛れる気がした。
最初のコメントを投稿しよう!