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二人でベッドの上に寝転んでいれば、俺が贈った腕時計を嬉しそうに撫でているヒロが視界に入る。
「それまだ付けてたの。部屋にいる時くらい外せば?」
「いや、これで良い。外さない」
「何でよ、家いる時になんか付けてるの鬱陶しくない?」
「これに限ってはずっと付けてたいからいいの」
俺はその言葉に「そっか」と照れ隠しで短く相槌を打つが、そう言って大事にしようとしてくれる姿を間近で見せられるとやはり嬉しさが込み上げてくる。
少し高かったけど、ちゃんと選んで良かった。
しかし普段物欲のなさそうなヒロにこんなに喜んでもらえるとも思っていなかったため、その反応は少し意外だ。
「つーかさ、この腕時計」
「え、うん」
俺が静かに喜びを噛み締めながらヒロを眺めていれば、ふいに視線が合ってどきりとする。
それと同時に紡がれた前置きに何を言われるんだろうかと考えていれば、ヒロはにやりと笑った。
「諏訪も一緒に選んだっつーの、嘘っしょ」
「...え、」
てっきり安物だろとか言われるんじゃと想定していた俺は、予想外かつ図星を突かれ動揺する。
しかしここで違うと言えば色々とややこしくなり、最終的にヒロを傷つけてしまうのではと考え、すぐに否定しようと口を開いた。
「何言ってんの、そんなわけ...」
「だめだって旭。俺旭のことなら何でもわかるもん。嘘も別につかなくていいし」
「...いや、うん。えっと、でも違くて...」
「しどろもどろじゃん、やっぱ諏訪が言ってたの嘘か」
この時ばかりは普段の取り繕った笑みも浮かべる事ができなかった。
本当に必要な時に機能しない俺の表情筋はヒロを前にしては手も足も出ないようで、俺は嘘をついたことを素直に謝るしかないなと腹を括る。
「ヒロ、ごめん..」
「何で旭が謝んだよ。これって俺のために旭が一生懸命選んでくれたってことっしょ?そんな嬉しい事ないわ」
ヒロはそう言って嬉しそうに目を細めるが、それが俺に気を遣わせないためのいつもの優しさなのか、本心で言っている事なのか判断がつかない。
そのまま俺は何と言ったら良いか分からず困惑していれば、ヒロはおもむろに俺の方へと手を伸ばしてくる。
「旭が俺のために、...俺だけのために選んでくれた。ずっと大事にするから」
そう言ってベッドの上で手を握られて、これは本心から思ってくれているやつだなと俺は内心安堵した。
「旭、ありがとね。....それに、諏訪が関わってない方が俺的には嬉しいし」
「え、なに?」
「んーん、何でもない」
ヒロは小さな声で何かを呟くが、俺には後半の言葉を聞き取ることはできなかった。
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