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「諏訪」
「おう、おはよ」
「昨日いきなりいなくなったからびっくりしたじゃん。声くらい掛けてくれれば良かったのに」
「え、ああ...悪い、急用できちゃってさ」
翌朝学校ですぐに諏訪の元へと向かい昨日のことを突けば、諏訪は謝りつつも悪びれのない顔で笑った。
まあ俺やヒロとの間柄だし、諏訪がこういう奴だということは十分に理解している。
俺は人に振り回されるタチだが、諏訪に至っては確実に振り回す方の人間だ。
それ含めて諏訪の魅力なんだろうと思うと、なんだか納得せざるを得ない。
「...景広、俺のことなんか言ってた?」
「は?何かってなに?」
「ああいや、別に何もなかったんならいい」
「....?うん、まあ特には」
心当たりがあるとしたら誕プレの件で諏訪が噛んでないことがバレたことくらいだが、ヒロは気にしてなかったみたいだし、それについて何か言われたわけでもない。
それならわざわざ伝える必要もないだろうと結論づけてそう返せば、諏訪はどことなく安心したように表情を緩めた。
「てかそろそろテストじゃん。諏訪今度こそ赤点免れないとやばいでしょ」
「...それなあ。ほんと、テストさえなきゃ俺の高校生活安泰なんだけど、酷なもんだぜ」
そんな話をしていれば、今し方登校してきたらしい他の友人たちも俺たちの話に加わってくる。
そこには南もいて、本当にいつのまにか馴染んでるよなとぼんやり思った。
•••••••••
今日の1限は体育だ。
朝から着替えに移動にバタバタするのは月曜日限定で、そもそも体を動かすのもそこまで得意じゃない俺にとっては週初めの過酷な時間割は憂鬱でしかない。
「はあ...」
「今日サッカーっしょ!テンション上がるわぁ」
「諏訪、今日こそお前からボール奪ってシュート決めてやるから覚悟しとけよ〜!」
「は?ぜってぇ今日も阻止してやる」
俺のテンションとは裏腹に、連んでいる友人たちはそれはもう体育の時間を楽しみにしている。
こういうところで諏訪経由で仲良くなった人とは気が合わないなと思うが、それも今に始まった話ではない。
そんな中、わいわいと話しているみんなの輪の中で薄く笑みを浮かべている南が視界に入り、俺はなんとなく話しかけてみることにした。
「南くんってスポーツとか好きなの?」
「え、俺?...いや好きとかは特にないけど。あ、でも昔から割と何でもできてバスケ部とかサッカー部の助っ人として呼ばれること多くて大変だったよ」
「....へぇ、そうなんだ。それはすごいね」
俺は南の想定外の返しに思わず面食らう。
スポーツは苦手だという回答を期待していた俺は落胆するとともに、てっきり南は謙虚なんだとばかり思っていたため、隠しきれていない自慢めいた返答になんだかマウントを取られたような気分になった。
その心中が相槌にも若干出てしまい、俺は慌てて言葉を続ける。
「俺なんか運動苦手だし、いつも足手まといになんないように必死だから羨ましいや」
「はは、運動得意そうなのに。まあ俺も好きじゃないけどできるってだけだから、里見くんと一緒だよ」
「....そっか」
....一緒なわけない───
心の中ではそう思っているのに、適当な返しをしてくる南に腹が立ちながらも曖昧な反応をすることしかできない。
俺はまた孤独感に苛まれるが、その感情には見て見ぬふりをした。
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