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「旭、転校生の話聞いた?」
「え、何それ聞いてない。転校生来るの?」
「明日来るらしいよ、しかもうちのクラス。田辺のやつが阿部先生から聞き出したって言ってたから間違いない」
「そうなんだ、楽しみだね」
今日最後の授業も終えて、さあ帰ろうと荷物をまとめていれば、同級生である諏訪からそんな事を聞かされる。
正直、転校生が来ようが来まいが俺はどちらでもいい。
しかしそんな腹の中をわざわざ明かす必要もないため、笑みを浮かべてそれっぽい相槌を打てば、諏訪は嬉しそうに笑った。
諏訪とは小学校からずっと一緒で、俺の親友だ。
家はそこまで近くはないが何かと気が合って、高校に上がった今でも連んでいる。
本当はもう一人共通の友人がいるが、高校が別なため、こうして日常的に話すのはいつも諏訪だった。
諏訪はエセ陽キャの俺と違って周りからの信頼も厚いし、いつだって人の中心にいる。
今俺が高校で連んでいる奴らも諏訪を通して知り合った者が大半で、多少の気疲れはするものの学校生活も仲間と楽しく送れていて特に不満もない。
「旭、帰りファミレス寄ってかね?」
「ああうん。そういや今いちごフェアやってるよね。諏訪いちご好きだし良かったじゃん」
「え、まじ!?それは頼みまくるしかない!」
諏訪はしっかり者に見えて時々こうしてあどけなく笑う。
それは昔から諏訪のことを知っている俺だけの特権だと思っているし、そこに関して他人が入り込む余地はないと信じていた。
「転校生女の子だといいけどなぁ」
「あれ、性別わかんないんだ」
「田辺抜けてるから、大事なとこ聞き忘れてやがんの。まあどうせ明日わかるしいいっしょ。ほら早く行こ、苺が俺を待ってる」
「はは、なんだそれ」
そんな他愛もない会話をしながら、今日も明日もその先も、こんな幸せな日々が続いていくのだと疑わなかった。
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