一章 『お祝い屋』の仕事

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一章 『お祝い屋』の仕事

『あなたのお祝いごと、いっしょにお祝いします!』  そんなキャッチコピーのチラシを手にして、僕は住宅街を歩いていた。 「いまいちなキャッチコピーだったかな」  心の言葉を思わず口にしながらも、マンションの階段を上っていく。既に、何十枚配っただろうか。町中の家という家、片っ端からポストへチラシを入れている。  すべてのチラシを配り終えた頃には、日も暮れていた。  突如、携帯電話が軽快なメロディーを奏でる。 「もしもし。『お祝い屋』です」 「あの、チラシを見たのですが……」  電話の向こうで、男性の声が遠慮がちに響いた。 「ありがとうございます。お祝いをご希望の方ですね? どんなお祝いでしょうか?」 「えっと、その……。た、誕生日を……」  声の感じからして、きっと若いのだろう。恥ずかしそうに話す彼の顔が想像できた。 「なるほど。お日にちはいつですか?」 「きょ、今日なんですけど……」 「本日ですね。チラシに記載の通り、お祝いさせていただく方法はメール、電話、そして直接の三種類あります。どちらがよろしいでしょう?」 「あ、えっと……直接でお願いしたいです……」  直接祝ってほしいとお願いしてくる人は、意外と多い。みんな、自分の大切な節目を誰かと過ごしたいと願っているのだ。  希望の時間帯と彼の名前、住所、電話番号、その他の必要事項を尋ねてメモに控えると、通話を切った。 「『今から』か。よし」  僕は、彼の家へと急いだ。
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