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サテン生地の部屋着は着物で隠されていた体の線が露わになる。
露出の多いエロい服を着た女を脱がしてセックスをするよりも、私はセックスなんて興味ありません。と言うような眼鏡でもかけて白いブラウスを首元まで留めた色気の無い女を脱がした方が、興奮度が増す。その女がマグロだろうがなんだろうが、教え込めばいい。
男は意外と嫉妬深い。それは女のものよりも、もっと陰湿で素直さが無い分、攻撃的になったりもする。この女の良さは自分しか知らない。その独占欲が男の自尊心を高める。
着物を脱いで髪を下ろした姐さんは、下半身を駆り立てる。隠れていた丸み帯びた体が手に届きそうで、近寄り難さは変わらないのに脳内を刺激する。
「10分くらいで届けるって。千尋は酒でいい? 」
「いえ。酒は……大丈夫です」
「じゃあコーヒーでも淹れるよ。そういえばこの間の集まりは何のシャツとネクタイしてたっけ」
「最近はグッチとドルガバばかりですかね」
「とりあえず何着か渡すから好きなもの着させてやって」
そう言って姐さんはリビングから奥に入った衣装部屋に向かう。
「千尋もちょっと手伝って」
「はい」
姐さんに呼ばれ3畳ほどの広いウォークインクローゼットに向かって、姐さんが指先で流す様にハンガーをずらしていく。
姐さんのコートやワンピースや高級バッグと和泉さんのスーツやワイシャツが綺麗に並べられている。使っていない時計なども並べられていて、この部屋だけで総額億くらいにはなりそうだ。
「これくらいでいいか。和泉、服が気に入らないと機嫌悪いからね」
ワイシャツ3枚にネクタイやカフスを5種類ほど紙袋に持たされて、リビングに戻る。
「確かに。服装には厳しいですよね。でもお陰で俺も良いもの着せてもらってます」
ヤクザと言うのは意外と面倒見が良い。もちろん相性や個人の性格なども関係するが、和泉さんは金の稼げない俺に高級スーツや時計をくれたり、姐さんと一緒に高い飯に連れて行ってくれた。
その代わり俺は和泉さんに言われれば、夜中でも朝方でも、地球の果てでも、何処へでも飛んでいく。
死ねと言われたら死ぬのかと言われれば状況次第と答えるが、和泉さんの為になら刑務所くらいは迷わず入るだろう。
夫に甲斐性なしなどと称号を与える嫁が居るだろうが、ヤクザは舎弟にこそ甲斐性を見せる。
そしてまだ金の稼げない舎弟は兄貴分の裁量によって生活の全てが決まる為、どっぷりとした恩義が生まれる。
この世界が嫌になったとしても抜け出せないほど、体や感覚がこの世界に染まっていることに気が付く。
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