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「和泉さん。着替えそこに入っています」
次の日、愛人の家に迎えに行った俺は和泉さんを後部座席に乗せる。
「ああ」
「何着かありますんで」
「雅……何か言ってた? 」
「……少し」
「怒ってた? 」
和泉さんはワイシャツを着替えながら、口元を緩め俺に尋ねる。
「そんな素振りはありませんでしたけど……バレバレでした」
「だよねえ」
ははっ。と笑う和泉さんに少しだけ苛ついた。
「……少し寂しそうでした」
だから少し楯突く様な言い方をした。
「……お前……雅のこと好きになっちゃったの? 」
バックミラー越しに和泉さんの鋭い目が俺を捕らえる。それは目だけで無く、心臓を鷲掴みにされるような獣のような目に見えた。
「まさか」
俺はすぐに笑って視線を避ける。
「……やんないよ。あいつは死ぬまで俺のものだから」
ボタンを1つ1つ丁寧に留めていく和泉さんは、顎を少し上に向けて笑った。
ボタンを穴に1つ1つ押し込めていく。それは規則正しく、外れることは許されない。
和泉さんのピースに俺も姐さんもはめられていて、決して交わる事もなく触れる事もなく、そこに触れることが出来るのは和泉さんだけ。そう思った。
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