139人が本棚に入れています
本棚に追加
秘めごと
馬鹿な愛人のリサに呼び出され、和泉さんは居ない。気まずさを持ったまま、俺は1人姐さんの店「パサージュ」に顔を出す。
観音開きのガラス張りのドアを開け、階段を数段降りる。
カウンターには5脚の椅子が置いてあって、バーテン兼店長が1人。その先には真っ赤な絨毯が広がっていて、白を基調としたボックス席が5つ。閉店間近とあって、客は2組しか居なかった。
1人は常連でチーママの太客。肥えた腹と成り金らしいゴールドの時計と指輪がいつ見ても品がない。もう1組は1人は潰れて、もう1人は女を口説いている。
「あれ? 千尋1人? 」
俺に気付いた姐さんがこちらに歩いてくる。
ペールカラーの着物は、足元に向かって群青色の桔梗があしらわれている。髪の毛をアップにして着物と揃いの色の髪留めに、大ぶりなピアスと指輪にはゴツい宝石。
クラブのママらしい、品の良い姿だ。
「あ……すいません。和泉さんちょっと幹部の人に呼ばれてしまって……」
ヤクザは膝に手を当てて腰を引き大袈裟な謝罪をしている姿が目立つが、いかにもヤクザらしい装いは店の質を落とす。俺は軽く頭を下げて、小声で姐さんに伝える。
「ふふ。そっか。良いんだよ。また女だろ」
見透かす様な目で俺をパッと見て直ぐに笑みを溢す。まるで俺が浮気者の様なばつの悪い思いをする。女の追求は他人事でも心臓に悪い。
「あ、いえ。本当です。あ、それでその明日そのまま会合に出るので着替えが欲しいそうなんですが」
「ああ、そう。それじゃあ少し待ってて。あたしももう帰るわ」
「はい。車で待ってます」
「友さん。あたし先にあがるから戸締りとかよろしくね。売り上げの残りは金庫に入れておいてね」
姐さんは店長に声をかけ、更衣室に入っていく。
「はい。お疲れ様でした」
店長はグラスを拭いている手を止めて、姐さんに頭を下げる。店長は30過ぎの訳あり男。
線の細い色男で小さなスナックを経営していたが、金銭トラブルなどで辞めたらしい。
いつもニコニコとして人当たりが良いが、こう言う奴ほど意外とスケベで夜が激しい。と俺の本能が囁く。
「千尋さんも。いつもご苦労様です」
俺は絶倫男に会釈をして、車に戻る。
最初のコメントを投稿しよう!