年越師匠

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しかし、私の胸騒ぎはその形を変えた状態でやって参りました。 「要君、要君」 部屋の掃除を終えた私を呼ぶ声が玄関の方から聞こえました。 慌てて玄関へ行くと、町内会長の源田さんが、先生を連れて立っておられました。 先生の右手には包帯が巻いてあり、怪我をされたのは直ぐにわかりました。 「先生、どうされたのですか」 私は先生に肩を貸して、家の中にお連れしました。 「いや、恥ずかしい。餅を搗いていたんだけどね、張り切り過ぎて手首を捻ってしまったらしい」 先生は笑いながら履物を脱いで、家に入って行かれました。 町内会長の源田さんはバツの悪そうな表情で頭を下げられます。 「医者には連れて行ったんだけど、しばらくは右手を使わない様にって事だったんで」 そう仰ると、外に待たせていた人から餅の入った袋を受け取り、私に渡されました。
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