年越師匠

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「痛い、痛いよ、白井君」 その声に我に返り、白井さんは先生の手を離されました。 「心配するな。三が日、安静してたら治る」 「三が日って…」 白井さんは呟く様に仰られました。 「今日中に戴ける原稿はどうするんです。左手じゃ書けないじゃないですか」 白井さんは興奮してまた先生の右手を掴まれました。 「だから痛いって…」 先生は煙草を消して、白井さんの手を掴まれました。 「白井君は私の心配をしてくれてるのかね。それとも原稿の心配かね」 先生は白井さんを睨む様に見ておられました。 白井さんは口をモゴモゴさせて、 「も、勿論先生の心配ですよ」 と仰り、座り直されました。
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