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結局先生は白井さんに渡す原稿を書いておられず、年越しながら書くつもりでおられた様でした。
それが右手の負傷により書く事が出来なくなり、白井さんは本気で頭を抱えておられました。
買い物から戻られた希世さんは、御節料理の準備に取り掛かられ、厨から出たり入ったりを繰り返しておられます。
先生と白井さんと私の三人は食堂で夕食を戴いた後、珈琲を飲みながらどうするかを考えておりました。
「やはりここは要君に頼もうと思うのですが」
白井さんは深刻な表情で仰います。
しかし、先生の随筆です。
そこを私が書く訳には行きません。
私は頑なにそれを断り、更に白井さんは頭を抱えられるのです。
「じゃあ私が書こうとしていた文面を話すので、それを要君が原稿にするというのはどうだ」
先生は煙草を呑まれながらふと、そう仰いました。
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