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「なるほど…」
白井さんはその言葉に表情を明るくされ、直ぐに書斎へと走って行かれました。
そして原稿用紙と万年筆を持って戻って来られ、それを私の前にポンと置かれます。
「さあ、要君。後は頼んだよ」
白井さんは私の向かいに座りニコニコと笑っておられました。
それなら私でなく、白井さんが書いても良いのでは…。
私はそう思いながら、万年筆の蓋を抜き、インクを吸わせました。
その間も厨から美味しそうな匂いが漂ってきます。
そして事或る毎に、希世さんがやって来られ、
「先生、黒豆の味を見て下さい」
「先生、煮しめの味はどうでしょうか」
「先生、お雑煮のお出汁の味見をお願いします」
と先生に皿を差し出されます。
その度に先生は嬉しそうに味見をされて、満足そうに微笑んでおられました。
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