年越師匠

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「で、何処迄話したかな…」 と中断してしまいます。 それに、随筆の論題が難しすぎるのです。 今回の論題は「現代の日本を支える文学の新潮」らしいのですが、こんな随筆は文学に携わる偉い先生方しか読まれない気がします。 一時間程経過しましたが、数行書いた所で止まってしまいました。 「なかなか進まないですね…」 白井さんは頬杖を突いて、眠そうでした。 先生は希世さんが作られている年越し蕎麦が気になって仕方ない様子でした。 「まあ、大晦日ですしね…。こんな時間まで仕事をしてるのは私たちだけかもしれませんね…」 私は万年筆の蓋をして、原稿用紙の上に置きました。 「第一、大晦日に書く論題じゃないですよ。こんな随筆、誰が読むんですか」 私も疲れ果て、食卓の上に置かれた温州蜜柑に手を伸ばしました。 先生の和歌山の知り合いが送って下さった甘い蜜柑でした。
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