年越師匠

白井さんが帰って来られたのは、正午を回り、先生も希世さんも、勿論私も、腹をグウグウ鳴らし始めた頃でした。

「すみません。鰻屋が混んでて…」

白井さんは鰻重を抱えて玄関から入って来られました。

「遅い。遅い仕事は猿でも出来るぞ」

先生は白井さんから鰻重を引っ手繰る様に取られると食堂へと入って行かれました。

私はその先生を見てクスクスと笑い、白井さんに、

「お疲れ様でした。いかがでしたか、町は賑わっていますか」

と訊きました。

「凄い人ですよ。正月用の買い物をされる人でごった返してますよ」

白井さんは食堂に入りながら、外套を脱いでおられました。

「しかも冷えて参りました」

私は頷きながら白井さんの後ろをついて行きます。