第二話 消えた妖精王とアミナスの失踪

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第二話 消えた妖精王とアミナスの失踪

 あの戦争からどれぐらいの月日が流れたのか。自分達で掴んだ未来を謳歌していた仲間たちは今、久しぶりにあの時のメンバーであの秘密基地に集まっていた。 「ここもそろそろ消えるかもな」  ため息を落としながら呟いたのは宰相のカインだ。隣には妻のフィルマメントが青い顔をして座って頷いている。 「やっぱ本当なの? あの話。まだ僕信じられないんだけど?」 「ああ、本当だ。誰も妖精王と連絡がつかないんだ」  大人になっても相変わらず美人なリアンの質問に答えたのは現王のルイス。そしてその隣では険しい顔をした王妃キャロラインがいる。 「今レスターが妖精界に入ってルウと一緒に妖精王を探してくれているわ。でもやっぱり何の手掛かりも無いみたい」 「文字通り消えたって事? 代替わりとかでは無いんだよね?」  ノアの言葉にそれまで青ざめていたカインの妻、フィルマメントが勢いよく立ち上がって怒鳴った。 「パパはまだ代替わりなんてしない! 若い! ママが一生懸命妖精達にバレないようにしてるけど……時間の問題だと思う」 「フィル、落ち着けって。ところで何か静かだなって思ってたんだけど、アリスちゃんは?」  カインが言うと、ノアとキリが揃って肩を竦めて見せた。 「それがねぇ、アミナスが昨日の夜から高熱だしちゃって今離れられないんだよ」 「まぁ、お嬢様が居た所で話は進みません。むしろ居ない方が話がスムーズまであります」 「……相変わらずっすねぇ」  オリバーは相変わらずなバセット家の面々に苦笑いを浮かべる。 「まぁここはいつだって通常運転だからな。だからこそ有難いというのが俺の本音だ。バセット家が慌てだしたら、それはもう俺達ではどうしようもないかもしれんからな!」 「ルイス、少しお口にチャックしていましょうか」 「す、すまん、つい懐かしくてだな」  控えめに笑ってルイスを見上げてくるキャロラインを見てルイスは咳払いを一つして苦笑いを浮かべる。それを聞いてキャロラインも何かを思い出したかのように笑った。 「気持ちは私も分かるわ。何だかここでこうしていると、あの時に戻ったみたいだもの」 「あの時から考えると俺達も随分歳取ったけどな。まだあの時ぐらい動けるのってアリスちゃんぐらいじゃないの」 「それは言えてる。あいつは死ぬまで動くよ。賭けてもいい」 「リー君ってば、それじゃあ賭けにならないわ!」  今も毎朝毎晩アリスの絵を拝んでいるライラにとって、アリスはもう神レベルである。  そして最近何故か娘たちまでそれを真似するようになってしまったのは、間違いなくライラが書いている本の影響である。 「でも懐かしんでる場合じゃないっすよ。妖精王が消えたなんて、それは世界の消滅まで視野に入れた方がいい案件っす」 「そうですね。万物を司る神がこの世界から消えてしまった。という事は、今後世界に何が起こるか分かりません。地震、水害、風害、ありとあらゆる天災が襲ってくるとも限らないんですよ」  ため息を落としながらそんな未来を想像したシャルルの肩を妻のシエラが撫でる。 「シャルルの言う通りです。一刻も早く妖精王を探すのと、新しい秘密基地を作らなければ。何が起こっているのかさっぱり分からない状態なので、余所者が少ない所の方がいいですよね?」  アランがそう言ってチラリとノアを見ると、ノアは分かっていたと言わんばかりに苦笑いを浮かべて頷いた。 「うちは構わないよ。いくらでも使って。ただ――」 「ただ?」 「いや、確かに何が起こってるか分からないんだけど、原因があるとすれば人間の仕業ではないよね?」 「どういう事だ? ノア」  ルイスの言葉にカインも頷いている。 「だってさ、普通に考えて妖精王を消す事なんて人には無理だよ。例えば妖精王を誘拐出来たとしても、妖精王の魔力を封じ込めるのは人間には無理だ。次に代替わりをしたっていうのが一番濃厚だけど……」 「パパは! まだ! 若い!!」 「って言ってるからそれもないよね? じゃあ残るはあと一つ。同じ力を持った何者かにどうにかされた可能性が、一番高いんじゃない?」 「……妖精王と……同等の力を持った者の仕業だと言う事、ですか?」  愕然としたシャルルにノアは頷く。 「そう。それが一番しっくりくるし、そんなのが相手なら秘密会議なんてどこでやっても同じだよ」  もしも妖精王の力を持った者が敵なのだとしたらどこでやっても同じ事だし、むしろ敵う訳もない相手である。何せ相手は森羅万象そのものなのだから。 「アリスならあるいは……」  ポツリとルイスが言うとノアはすぐさま苦笑いを浮かべて首を振った。 「いや、アリスだってあれでも一応人間だから。別に神に等しい力を持ってる訳じゃないからね? 何にしても、敵とかそういうのじゃない事を祈るしかないね」  ノアの言葉にその場に居た全員が頷いてその日は解散になった。    ノアとキリが秘密会議を終えて屋敷に戻ると、何やら屋敷の中が騒々しい。  いや、大体の時がバセット家は騒がしいが今日はそれに輪を駆けて騒がしかった。  そこへ珍しく血相を変えたアリスが飛び出してきてノアを強く揺さぶる。 「兄さま、丁度良かった! アミナス見なかった!?」 「アミナス? どうしたの? 寝てるんじゃないの?」 「それが、ちょっとうどん作ってる隙にノエルとレオとカイ殴り倒してどっか出てっちゃったみたいなの!」 「……」 「……」  ノアとキリはアリスの言葉に互いに顔を見合わせて思い出していた。幼い時の事を。そう言えばアリスも熱を出した時は異様に暴れて自分達がその餌食になったな、と。 「えっと、それでとりあえず三人は無事なの?」 「うん、それは大丈夫。ミアさんが三人とも手当してくれた。でも肝心のアミナスが居なくて、今皆で探しに行ってるの。ちなみに私も今から行くとこ!」 「待って、どこに行こうとしてるの?」 「森だよ! もう探せてないのは森だけだもん!」 「止めてください。あなたが一人で森に入ったら、余計にややこしくなります」 「キリの言う通りだよ。アリス、森は僕達が探してくるからアリスはもう一回領内を見て回ってきて」  今にも駆け出しそうなアリスをノアは羽交い絞めにして止めると、アリスは渋々頷く。 「分かった……ちゃんと見て来てね! 絶対だよ⁉」 「分かってるよ。可愛い娘を僕が手を抜いて探すと思うの?」  ニコっと笑ったノアを見てアリスとキリは真顔で首を横に振った。 「でしょ? キリ、行こう」 「はい」  こうしてアリスが持っていた森探索用セットを受け取って、ノアとキリは森に向かった。  一方アリスはもう一度領内を探すべくレスターから譲り受けたヴァイスの子供、ビルに飛び乗る。ちなみにビルはビッグウルフの略である。相変わらずネーミングセンスは皆無のアリスだ。 「アミナスー! 出て来ないと晩御飯抜きだよ~~~!!」  これを言われたら大抵アリスは焦って飛び出していた。  それを思い出したアリスが叫ぶと、森の奥からもノアとキリが全く同じセリフを叫んでいるのが聞こえてくる。  自分だけならいざ知らず、何となく皆にそう思われているのは癪だが今はそんな事を言っている場合ではない。アミナスは熱も出しているのだ。早く見つけてやらなければ。
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