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第700話
ノアが戻る頃には星は既に夜だった。
空には月が昇り、暗闇の中を長蛇になった列がゆっくりと進軍していく。やはりアリスのローラー作戦はノアの言う通り世界の至る所に波及していたようだ。
このままでは皆が皆自由に歩き続けてしまうという事で、地下組がローラーの先頭にいるであろう人たちにそれぞれ向かう方角の指示を出していた所に、ようやくノアは戻ってきた。
「はぁ~ただいま~」
槇と絵美里のあれこれを済ませたノアは、地上の様子を見てからとりあえず一息つくために地下に戻ると、そんなノアの帰還にカインとルイスが首を傾げた。
「おかえり、ってお前、どっか行ってたの?」
「うん。ちょっと絵美里をあっちに返して来てたの」
まるで近所にお使いにでも行ってきたような口調のノアに、カインとルイスが愕然とした。
「はあ!?」
「な、何も聞いていないんだが!?」
「別に言うような事でもないかなって思って。駄目だった?」
「駄目じゃないけど、言えよ! せめて一言!」
「ごめんごめん。こっちはもう大丈夫かなって思ったんだよ」
言いながらノアは机の上に広げられた地図とあちこちから送られてくるメッセージを見て頷いた。
「順調みたいだね。さて、それじゃあ僕はそろそろアリスを捕まえる準備でもしよっかな」
「いや、流石にちょっと休めば?」
「そんな訳にはいかないよ。自分に魔法かけた挙げ句興奮したアリスを捕まえるのは至難の技なんだから。それが終わるまでが僕の仕事だよ」
そりゃ出来ることなら休みたいが、アリスが暴れている時にノアとキリに休息など訪れない。ニコッと笑ったノアを見て、何か二納得したようにルイスとカインが真顔で頷いた。
「大変ねぇ~あんなお嫁さん貰っちゃうと」
ボソリと観測者が言うと、ノアが心外だと言わんばかりに観測者に近寄ってきた。
「観測者さんは分かってないね。人生に大事なのは飽きない事だよ。その点アリスと居たら飽きるどころか毎日が波乱万丈だからね! 死ぬまで楽しいよ、きっと」
そう言ってニコッと笑ってノアは妖精手帳に「アリス」と書きつけた。
「……俺は平穏な人生の方がいいが」
「俺もだなー」
「私もよ」
波乱万丈な人生はもう散々体験したのでここらへんでそろそろ落ち着きたい三人は、目の前のお茶を無言ですすった。
地上に戻ったノアは、随分と伸びた種族ごちゃ混ぜのローラーを見て思わず微笑んだ。
「凄いな! よくぞここまで伸びたもんだ」
その列は「圧倒」の一言だ。列の果ては既に見えず、もしかしたら本当に世界は仲間たちによって一直線の線が引かれているのではないかと思うほど長い。
「ノア! 戻ったか!」
「ディノ!」
突然の声にノアが見上げると、そこには幾分小さくなったディノが空を泳いでいた。
「どうしたの? 小さくなってる」
「ああ、大地達の力が戻りだしたのだ。それに合わせて私も魔力を抑えなくてはな」
「なるほど。ところでアリス達が全然見えないんだけど!」
「だろうな。私がアリスの所まで運ぼう」
そう言ってディノは地上に舞い降りた。ノアが腕に捕まるのを確認すると、ディノはまた空に向かって舞い上がる。
「絵美里はどうだった?」
ディノはノアが絵美里を姉妹星に置いてきた事を知っている。アメリアの最後は悲惨なものだったが、絵美里は一体どういうケリをつけたのか気になっていたのだ。
「絵美里ね、赤ん坊に戻ってたんだよ。だから僕のあちらでの親代わりをしてくれていた人に預けて来たよ」
「そうか……よくぞそんな決断をしたな」
ノアは絵美里を許さないのではないかと思っていたディノからしたら、ノアの下した判断は随分と優しい。
「うーん、最初はアメリアのような最後をって僕も思ってたんだけど、槇さん……えっと、僕の親代わりの人ね。その人がさ、僕たちの帰りをずっと待ってたみたいだったんだよね。僕は突然消えた訳だし、絵美里は自殺しちゃってるしでそれはもう落ち込んでてさ。見てられなくなっちゃった」
「なるほど。では絵美里の為ではなく、その槇の為にその決断をしたのか」
「そんな良いものじゃないよ。僕が僕の為にその判断をしただけ。アリスだったらそうするかなと思ってさ」
絵美里はもうしてきた事の罰を受けたはずだ。彼女のしてきた事は絶対に許されるような事ではないけれど、結果として絵美里もまたアメリアの実験体に過ぎなかった。精神が完膚なきまでに破壊された絵美里は、自らの意志で赤ん坊にまで戻り全ての記憶を捨てた。それはもう新しい命なのではないだろうか。
というのは建前で、実際の所は流石のノアも赤ん坊に手を出すことは出来なかったというのが正しい。かと言ってこちらに連れて帰ってきて、万が一何かの拍子にまた絵美里がノアの事を思い出したりしたら厄介だ。
何よりも槇の悲しむ姿をこれ以上見ていられなかった。絵美里が正しく赤ん坊に戻れたのは、きっと槇のおかげなのだろうから。
ノアの言葉にディノも納得したように頷いた。
「そうか。その判断を良しとしない者もいるだろうが、私は良い判断だったと思うぞ」
「そう? ありがとう。ところでこの列、長すぎない?」
「うむ。いくつかの列が途中で合流してしまってな。私達が伝書鳩のような動きをしているのだ」
そう言ってディノが指さした方を見ると、そこにはキャロラインと思われる人物が何やら声を張り上げていた。とはいえその姿は豆粒のように小さくて何を叫んでいるのかまでは聞こえない。
「ああ。ほら、見えたぞ! 行け、ノア!」
「うん。ありがとう、ディノ」
そう言ってノアはアリスの側でディノから飛び降りた。すると、それに気付いたドンがいち早く駆けつけて背中に乗せてくれる。
「ありがとう、ドン。よく僕だって分かったね」
「ギュギュ!」
推しを間違うわけない! ドンは胸を張ってノアを乗せたままアリスも飛び越して先頭に立った。
「アリス!」
ノアが叫んでアリスに向かって手を差し伸べると、アリスは泥だらけの顔でニカッと笑ってノアの手を取った。そんなアリスを思い切り引っ張ると、アリスはノアの前にストンと座って振り返る。
「兄さま! おかえりなさい!」
「はい、ただいま。さぁ、それじゃあ最後の一仕事しよっか」
「うん! それじゃあ皆! 最後のお仕事だ! このまま進めー!」
「うおぉぉぉぉ!」
アリスの号令に皆が声を上げた。それと同時にスピードがどんどん上がっていく。ふと前を見ると、正面からはオズワルドが率いる団体が見えた。
「オズー!」
アリスが手を振ると、オズワルドも長い列を引き連れてやって来た。
「アリスにノア。お前らだけドラゴンか。優雅だな」
「少しぐらい休憩させてよ」
ノアが苦笑いして言うと、オズワルドは肩を竦めて笑った。
「妖精王に聞いた。良い判断だったんじゃないか」
「ディノもそう言ってくれた」
「アメリアの魂にも恐らく救済が入るはずだ。俺は別に無くてもいいんじゃないかと思ったけど」
アメリアは嫌いだ。散々こき使われた挙げ句にまるでゴミのように捨てられたのだから。まぁそのおかげで今、自分はここに居るのだと考えれば悪くなかったのかもしれないが。
「そうだ! オズ、リゼちゃんうちの子達とレプリカに行ったって聞いた?」
アリスが言うと、オズワルドは満足そうに頷く。
「ああ、ディノに聞いた。あっちの方が安全だ。そうしてくれていた方がいい」
「うん!」
オズワルドの顔がいつになく優しくて思わず微笑んだアリスの耳に、アーロとエリスの声が聞こえてきた。振り返ると、二人はパパベアとウルフに乗ってやってくる。
「おーい! アーロー! 師匠ー!」
「うちの列もこの列に入隊したぞと伝えに来たんだ」
「既に物凄い長さだぞ!」
「そうなんだ! ありがとう、二人共! 仲間は多いほうが良いよ! 兄さま! 私、ひとっ飛びして他の皆の所も回ってきてもいい!?」
アリスが振り返ると、ノアは苦笑いをして頷こうとした所で下からキリの声が聞こえてきた。
「ごめん、アリス、ちょっとストップ。どうしたの? キリ」
「お二人共一旦下りてきてください!」
キリの言葉にアリスとノアは顔を見合わせて二人してドラゴンの背中から躊躇う事なく飛び降りてきた。そんな様子をキリの隣で見ていたリアンが顔をしかめる。
そこへ無事に着地した二人が平然としてやってきた。
「どうしたの? キリ」
「どうしたの!? 問題発生?」
「問題というか、このままでは埒が明きません。流石に徒歩で全世界を回るのは厳しいです」
「だね。それじゃあ次の作戦に移ろうか。ローラー作戦のおかげで大分量も減っただろうし。とはいえこの先はまだ何も考えてないんだよね。どうしよっか?」
ノアはキリの言葉にすかさず頷いた。キリの言う通りだ。いずれこのローラー作戦には無理が出てくる。それは最初から分かっていた事だ。
頷いたノアとは裏腹にアリスは首を傾げる。
「え? 大丈夫だよ! 世界は狭いよ! ギャン!」
「馬鹿は黙っていてください」
「ははは、二人共こんな時に喧嘩しないの。でも困ったな……あんまりゆっくりしてるとこっちの体力が持たないし……」
ここまで来てさらに時間をかけたくはないが、妖精王の魔力がまだ戻っていないのにまた一気にエネルギーに戻してもらう事は出来ないし、オズワルドには敵の兵士だけをエネルギーに戻すという事が出来ない。ディノにも恐らくそれは不可能だろう。
ノアが腕を組んだその時、空からキャロラインとティナが下りてきた。
「アリス! ここに居たのね!」
「キャロライン様ぁ!」
アリスはキャロライン達が下りてくるのを待って、すぐさまキャロラインに抱きついた。そんなアリスをキャロラインは慣れたものだと抱きとめる。
「探したのよ。あなた達、この列はどうやって収めるの?」
「それなんだよ。僕たちも今それを考えてた所なんだけど、このまま徒歩で世界を練り歩くのはどう考えても無理だ」
「それはそうね。カインは?」
「連絡してみる? キリ、お願いしてもいい?」
「もちろんです」
キリはそう言ってどんどん進む列を横目に何故ノアが自分のスマホを使わないのか、などと考えながらもカインに連絡を取った。
『どうした? キリ。何かあった?』
「いえ、ちょっとノア様に代わります」
そう言ってキリが無言でノアにスマホを渡すと、ノアは小さくお礼を言ってそのスマホを受け取った。
「あのさ、どう考えてもこの作戦無謀なんだよね」
唐突にそんな事を言うノアに、スマホ越しにカインの苦笑いが聞こえてきた。
『うん、俺もそう思う。で、どうする? 列は止まりそうか?』
「無理だね。皆、興奮しちゃってる」
『だよな。ディノに頼んで列を止めてもらうか』
「だね。キャロライン、悪いんだけどディノに頼んで一旦全ての列をストップしてもらえるよう頼んでくれる?」
「ええ、分かったわ」
キャロラインはそう言ってニケに乗って颯爽と舞い上がった。
「で、変態どうすんの?」
「どうしよっかね? カイン、何か良い案ないの?」
『いや、俺も考えてんだけど、妖精王もオズもディノも無理ってもう詰んだよな?』
「う~ん……時間はかかるけど隊列分けて休憩しながら確実に倒して回るしかないのかな……」
『それしか無さそうだけど――ん? なんだ、ノエルか。えーっと?』
カインはそう言って視線を落とした。そこでイエローが一生懸命文字を書いている。
「カイン?」
突然話すのを止めたカインにノアが訝しげに尋ねると、ようやくカインは話し出す。
『ん? ああ、今ここに生きてるカメラが無いから音声だけをあっちに送ってんだけど、この会話聞いてたノエルから連絡が入ったんだ』
「ノエルから?」
『ああ。なんか、アミナス発光事件だよ! だって。何の事か分かるか?』
「いや、さっぱり意味が分かんないんだけど――」
それを聞いていたティナが、突然ポンと手を打った。
「アリス、まずは肉を食べろ」
「え?」
「ん?」
「ティナ?」
突然のティナの言葉にバセット三兄妹が首を傾げると、ティナは有無を言わさずアリスのポシェットから肉で巻いたおにぎりをアリスに持たせた。するとアリスはまるで条件反射のようにそれを食べだす。
「えっとー……ティナ、とうとう壊れた?」
「かもっす」
あまりにも突拍子もないティナの行動にリアンとオリバーが首を傾げたその時、キャロラインが空から舞い降りてきた。
「伝えてきたわ! それで、どうするの?」
「ああ、キャロ。いやな、子どもたちから連絡が入ってな。ほらあれだ。ライラの言っていた奴だ」
「ライラの言っていたやつ?」
「ああ。ほら言っていただろ? アリスは大地の化身だ。発光したらきっと凄いだろう、と」
「ああ! え!? あ、あれをやるの!? ここで!?」
アミナス発光事件を思い出したキャロラインがゴクリと息を呑むと、ティナは真顔で頷いた。
「一気に敵兵だけを片付けるには、もうあれしか方法が無い。ノア、アリスを借りるぞ。ついでにドンもついてこい」
「いいけど、一体何が始まるのかな?」
一体ティナ達が何の話をしているのかがさっぱり分からないノアが首を傾げると、ティナは不敵に笑った。
「前に言ってたろ? 妖精王の真似事だ」
と。そんなティナにアミナス発光事件を直接知らない仲間たちは首を傾げる。
「食べたな? よし、行くぞアリス」
ティナはそう言ってアリスの手を引いて森の奥に行くと、そこからさらにアリスとドンに妖精手帳を使った。
「ねぇねぇ、ここドラゴンの谷?」
アリスは大人しくティナについていくと、周りを見渡して言った。ティナはそんなアリスの質問を無視して何やら魔法をこねている。
これから何が始まるのか、ティナは魔力を丸めてお団子のようにしているティナを見守った。
そんなアリスにティナは大きなため息を落として真顔で言う。
「ふぅ……本当はお前の魂を可視化するのは怖いが、仕方ない。アミナスでも相当だったんだ。お前だとどうなるのか見当もつかない。ただ言えるのは、ドン、お前は何かで目を覆っておけ」
「……ギュ」
あまりにも神妙な顔をするティナにドンは頷いてアリスのドレスの裾を引っ張って破くと、それを何重にもして自分の目に巻き付けた。見えないのは不安だが、ティナの魔法でアリスの魂が可視化されたらどんな事になるか何となく想像出来る。
そんなドンとティナを見てアリスは頬を膨らませた。
「酷くない!? そこまでしなくても大丈夫だよぅ!」
「いいや、アミナスでも目が潰れるかと思ったんだ。お前など絶対に直視出来ないに決まっている! 行くぞ!」
「う、うん!」
何だかそこまで言われると不安になるが、アリスはティナの掛け声にギュっと目を閉じた。
次の瞬間、おでこが何だか急に熱くなって、あ! と思った瞬間、ティナからうめき声が聞こえてくる。
「大丈夫!? ティナ!」
「だ、大丈夫だ! そ、それ以上近寄るなよ、アリス! 私まで召されてしまう! さあドン、アリスを連れてそこら中を飛び回れ!」
「ギュッ!」
ドンは布越しにアリスを見ようと思ったが、それは止めておいた。そんな事をしなくてもアリスは十分眩しかったからだ。
ドンがいつものようにアリスの前にしゃがむと、アリスがいそいそとドンに登ってくる。アリスが所定の位置についたのを確認したドンは、アリスを連れて舞い上がった。
「良し! ドンちゃん、いっけ~!」
「ギュ、ギュギュー……」
頭が熱い。というか、アリスが乗っている所が異様に熱い。おまけに眩しすぎて景色すら見えない。これはもう太陽を乗せて飛んでいるようなものだとドンは悟った。
一方、アリスとドンを連れて消えたティナを見送った仲間たちは結局良い案が見つからなくて、妖精王の魔力がもう少し戻るまではアリスのローラー作戦を継続する事にした。
アミナス発光事件は聞いてはいたが、それがどれほどの効力を発揮するのかも分からないのだ。作戦は多いほうが良いに決まっている。
「それじゃあ全ての列を分けて拠点に移動してもらって、前の隊がそこについたら次の隊がそこから進む。これを繰り返すしか無いね」
「そうですね。では隊列の移動をディノ、オズ、お願いできますか?」
「そんぐらいなら余裕」
「ああ、分かった。ではそれぞれの隊長にこれを渡しておこう。移動が必要な時はこれを擦ってくれ」
そう言ってディノは自分の体から鱗を数枚剥がした。それを見てリアンがギョッとする。
「ちょ、あんた! 痛くないの!?」
「ははは、こんなもの髪を抜くのと変わらんよ」
そう言ってディノがノアに鱗を手渡すと、ノアは首を傾げて鱗をじっと見ている。
「これを擦ったらディノを召喚出来るって事?」
「ああ」
「へぇ、魔法のランプみたいだね。オズはどうやって呼んだらいい?」
「俺は普通に自分達がいる場所と俺の名前を叫んでくれたらいい」
「それで聞こえるんだ。便利だね」
「まぁな。それじゃあディノ、行こうぜ」
「ああ。ではまた後で」
「うん。皆によろしくね」
そう言ってノア達は二人を送り出した。
「で、僕たちもどっかの隊を引き連れていけばいいの?」
「うん。オリバーとリー君はいつも通りセットね。僕はキリと行く。他の人達にも連絡しとかないと。あと隊を連れてくだけならカインとルイスにも出来るでしょ」
言いながらノアはキリのポシェットから勝手にスマホを取り出してルイスとカインにメッセージを送った。すると、すぐさま二人から返事が返ってくる。
「……ノア様、どうして先ほどからいちいち俺のを使うんです?」
「ん? ああ、僕のスマホあっちに置いて来ちゃったんだよ」
「は?」
ノアの言葉にキリは愕然とした。ノアのスマホにはアリスと家族との思い出が山程詰まっていたはずだ。命の次ぐらいに大切だと言っていたスマホを置いてくるだなんて、正気の沙汰ではない。
「驚くよね。僕も驚いた。でもさ、何か槇さんと繋がりが欲しかったのかな。あっちで唯一僕を、僕たちを愛してくれた人だから」
そう言って微笑んだノアを見てキリは何かに納得したように頷く。
「槇さん……なるほど、理解しました。要はノア様はその槇さんという人に多大なるご迷惑をおかけしたと言う事ですね?」
「いや、言い方……まぁそうなんだけどさ、何かこう、もっとさぁ」
「いいえ、ノア様は確かに性根が腐りかけていますが、あと一歩の所で腐り落ちていません。それはきっとその槇さんという方が一生懸命手を焼いてくれていたのでしょう。それは俺も是非ともお礼を言いたいですね」
真顔でそんな事を言うキリに流石のノアも引きつった。チラリとリアンとオリバーを見ると、二人は後ろを向いて肩を震わせている。
そんな三人にノアは咳払いをして見せると気を取り直したように言った。
「そんな訳だから! しばらく借りるよ、キリ」
「どうぞ。壊さないでくださいね」
「分かってるって。それじゃあ作戦開始だよ、皆」
ノアはそれだけ言ってキリの腕を掴んでスキピオに飛び乗って、リアン達とその場で別れた。
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