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店の中に入ると、30代くらいの若者がいた。
「いらっしゃいませ。お好きな席にお座りください」
私はカウンターではなくテーブル席に座った。客は私一人だった。
外観だけではなく、店の中も、私が若い時によくあった喫茶店の雰囲気だ。美穂子とよくデートをした。私はこの店に好感を持った。
私は紅茶とナポリタンを注文した。
待っていると、野菜を炒める良い匂いがしてきた。私は久しぶりに気持ちが弾んだ。人間には美味しいものを待つ時間が必要なのだ。
「お待たせいたしました」
運ばれてきたナポリタンは、玉ねぎ、ピーマン、ウインナーと具材は私がつくっていたものと変わらないようだった。
ナポリタンの上に目玉焼きが乗っていた。目玉焼きはとてもきれいに焼けていて、ナポリタンの色とよくあった。
一口食べる。麺はやわらかかった。
味は少しケチャップの酸味が強いような気がして、先輩方は顔をしかめそうだ。
でも、私は美味しいと思った。なぜか、懐かしい気持ちになったのだ。
また、美穂子を思い出す。
私が料理人としての地位を確立する前、料理に青春をささげていた私の姿を美穂子は見ていてくれた。
私がどんな立場になっても変わらない愛情をくれた。
本当に素晴らしい人を私は妻にすることができた。
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