決め事の相談

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決め事の相談

その夜…、香は、光とダイニングで話をすることにした。  「今日ね、光が行きたいと思えるなら…、夏休み明けの二学期から通学出来る高校に行ってきたの。」 と話を切り出した。  そんな香の顔を、光は無表情で見つめながらも頷いた。  「毎日通わなくても良くて、メールで授業も出来るみたい」 「提出物さえちゃんと出来るなら、進級もしていけるそうなの」 「…どうかな?」 と、香は光に問いかけ、 「…気になるなら、来週見学行く?」 と、光の目を見て聞いてみた。  すると、光は少し和らいだ瞳で頷いた。  それを見た香は、 「あっ、この目は行きたいと思ってる」 と確信し、 「じゃあ、来週行こうね」 と光に笑いかけた。  光は黙ったまま頷いた。  そして、話の後で香は葵を呼んだ。 「なに〜?」 と、のんびりと部屋から出てきて、ダイニングの光の隣に座った葵を見て、香は二人の前に壁紙のカタログを差し出した。 「?」 そのカタログを光と葵はじっと見つめた。 そして葵が、 「これ、何?」 と聞くと、 「あら、分からない? 壁紙のカタログよ」 と香は、答えた。  葵はため息をつきながら、 「いや、それは分かるって」 「なんでこんなの見せるの?」 「賃貸なのにリフォームでもする気??」 と、葵はイラッとしながら答えた。 「やだ〜、違うわよ、新しく住む家のあなた達の部屋の壁紙よ」 と香が答えると、葵は立ち上がり、 「はぁ〜!? 新しく??聞いてないんですけど!」  「光! 知ってたぁ?」 と、光を睨むと、光は首を横に思い切り振っていた。  それを見て、香は、 「ちょっと! 光を怖がらせないでよ!」 と葵を制すると、 『誰のせいだと思ってるの!』 『ほんと、ありえない!』 と、葵は苛つきながらも、黙って椅子に腰かけた。 葵が座ったのを見て、香はまた話しだした。 「葵が高校入る頃から探してたの」 「お店と高校の間くらいで良い所無いかな~って」 「そしたら今日いい所あって、思わず買っちゃった」 と、笑顔で香が言うと、 『…買っちゃったって…、バーゲンセールじゃないんだから、思わず買うようなものか?』 と、葵は光が怖がると困るので、口には出さずに思っていた。 そして、頭を切り替え、 「もう買っちゃったならしょうがない!」 「で、何決めるって?」 と、葵が香に問いかけた。  すると、 「子供部屋の壁紙」 「リフォームするから、どうせなら好きな壁紙にしてあげたいなと思って」 と、香が答えたので、葵は、 「オッケー!」 と言って、数冊あるカタログの一冊を手元に置き、パラパラめくった。 香は、光の前にもカタログを置き、 「光も自分の部屋なんだから、自分で選ぶのよ」 と伝え、席を立った。 光は考えた。 今まで自分でしたい事をした事が無かったので、どうすればいいのか分からなかった。 そんな光の戸惑いに気づいた葵は、 「この中の紙が、部屋の壁紙になるから、柄が多いと目が疲れるかも」 「1面だけ柄にして、あとは色を選ぶとかも良いし、好きな色で全面にしてもいいんじゃない?」 と、光に伝えた。  そして、文房具の置いてある棚から付箋を取り出し、 「紙を見て、これ見ると嬉しいかも…って思うのがあれば、この付箋つけてって」 「あとで見比べて選びなよ」 と言って、付箋を手渡した。 光は頷き、付箋を握りしめながらカタログをめくっていった。 香は、そんな二人の様子を、リビングから眺めていた。 光は考える時、一対一の方が落ち着いて考えられるようだったので、香はダイニングから離れたのだ。 「やっぱり私がリビングに来て正解だったわね」 と、香は思ったあと、手元の本に視線を下ろした。 しばらくして、葵が、 「よし、決まった!」 と言いながら顔を上げ、隣を見ると、2冊のカタログを並べて、交互に2種類の紙を見る光がいた。 「どっちにするか、悩んでるの?」 と聞くと、頷く光。 見ると、パステルカラーのブルー系とグリーン系で悩んでいた。 「両方使いは…無いか…? 有りか?」 と悩んだ葵は、リビングにいる香に、 「他に部屋あるの?」 と聞いた。 葵の方へ向いて、 「2階に3部屋あるから、1つはプレイルームにしようと思ってる」 と香が答えると、葵が、 「よし! 決まった!」 「プレイルームは光の選んだ壁紙で!」 と香に少し大きな声で伝えた。 光がそんな葵を見つめていると、葵が光に目をやり、ニコッと笑った。 そんな二人を見て、香も嬉しくなり、 「夏休み終わりには引っ越すから、二人とも準備しといてね」 と、笑いながら声をかけた。
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