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新居
今日は、引っ越しの日。
晴天の中、引っ越しの業者にトラックに乗せてもらい、新居に着いた。
トラックから降り、葵は言葉を失った。
「お母さん…、あれ…、何?」
と、庭の向こうの新居の横にある建築中の建物を指差した。
香は、建物にチラッと目をやり、
「あ〜、あれ〜? カフェよ」
とそっけなく答えると、葵は香を睨んで、
「はあ〜!?聞いてないんですけど!ってか、誰のよ!」
と怒鳴ると、うるさそうに眉間にシワを寄せて、
「私のよ」
「住み始めるのにうるさくてごめんなさいね、しばらくしたら建つから」
と、香は言いながら、新居の中へと入っていった。
そんな香の後ろ姿を一睨みしたあと、
「はぁ…、また相談無しだよ」
「マジありえない…」
と葵は、肩を落として溜め息をついた。
その後ろで一部始終を見ていた光は、葵の隣に行き、肩を叩いて、心配そうな目で葵の顔を見ていた。
その心配そうな目を見た葵は心が軽くなった。
「ん、私には光がいる、だね!」
と、光の目を見て笑顔をみせ、二人仲良く新居へと向かった。
玄関を開けると、少し広めの玄関があり、その先のドアが空いていて、リビングが見えた。
リビングに行くと、引っ越しのダンボールが山積みになっているが、部屋の雰囲気は北欧のシンプルで落ち着いたら部屋になっていた。
「え〜! なんか、オシャレ〜!!」
と、葵は、見渡しながら声を上げた。
すると、奥の部屋から、
「そうでしょ〜!! 私のセンスなの!」
と、嬉しそうに答える香がいた。
葵は苦笑いし、
『言うんじゃなかった…』
と心の中で思っていた。
葵は、気を取り直して、
「二階の部屋見に行こ!」
と、光の手を引っ張り二階へ上がった。
葵の部屋は、白い壁に1面だけラベンダー色で、同じ色の遮光カーテンと白いレースのカーテンをつけ、天井には、シャンデリアに似たライトが付いていた。
「このシャンデリア風のライト、可愛くない?」
「やっぱ、この部屋にこのライト!正解だぁ!」
と、部屋を見てテンションの高くなった葵は、一緒に部屋を見ていた光の方を見て、
「次は光の部屋〜!」
と言って、光の部屋へ光を引っ張って連れてった。
光の部屋は、白壁に1面だけパステルブルーにした。
そして、壁の色より少し濃いめの青の遮光カーテンと白いレースのカーテンが付いていて、ライトはシンプルなものだった。
部屋を開けて、葵は、
「ん〜、ザ、シンプルだね…」
と呟き、
「次! プレイルーム!」
と、すぐに切り替え、部屋の真ん中にあるプレイルームのドアを開けた。
そして、葵は言葉を失ったが、すぐに、
「え〜!何これ〜!スゴい〜!」
と、歓喜の声を上げた。
プレイルームは、正面にパステルグリーンの壁で後は白。
カーテンはアイボリーの遮光カーテンとレースのカーテンが付いていた。
葵が驚いたのは、ベンチプレスが右側隅に置いてあり、反対側の壁一面が本棚になっていて、中央窓の下には、黄色のオシャレなカウチソファが置いてあった。
「光がここでトレーニングしてる時、私ソファで漫画読んでよっかな〜」
と自分の願望を、葵は思わず声に出していた。
光の顔を覗き込み、
「光! いいでしょ?」
と聞くと、光はちょっと間があり頷いた。
「ちぇ、仕方なく頷いたな…」
と葵は思ったが、嫌という感じでは無さそうなので、
『時々にしよう…』
と、心の中で思った。
夜、新居で夕飯を食べ終えたあと、香は二人をダイニングに呼んだ。
「明日からね、私、ダリアには行かない」
「お店は、小林君に任せることにしたの」
と話しだした。
葵は驚いて、
「えつ!? 仕事変えるの?」
と聞いてきた。
香は頷き、
「隣に建ててるカフェの内装を、自分でやろうと思ってるの」
「だから、明日から大工よ」
と笑顔で答えた。
意味の分からない葵と光は、黙って香を見つめた。
「大工さんじゃないと出来ない骨組みとか水回りは頼んだけど、せっかくだから、素人が出来る所は自分でやりたくて」
「だから休みの日は、あなた達も手伝ってね」
と笑顔で香は、二人に伝えた。
葵はそれを聞いて、
「やば! メチャ楽しそうじゃん!」
「やる! やる! なんなら学校休む!!」
と香に向かって言うと、香は呆れた顔で、
「あなたはそう言うと思ったわ」
「でも、学校はちゃんと行ってね」
と答えた。
光は、言葉にこそ出来なかったが、一緒にカフェ作りができることがすごく嬉しかった。
『自分で部屋のインテリアを選ぶ』
『自分で学校へ行くか決める』
『カフェ作りを手伝う』
光は、そんな多くの事を学び、その一つ一つの行為が、人としてどんなに喜ばしいことなのか、その胸の高鳴りで心で感じていた。
こうして、新居で新たな生活が始まった。
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