新学期

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新学期

 夏休み明けの登校日。  葵は、新居に引っ越したおかげで、今までの半分の時間で登校できる喜びに、とても浮かれていた。 「寝坊しないで行けそう〜!」 「いやぁ、お日様も喜んでるわ」 と、空を見ながら歩いていると、後ろから、 「おっはよ!」 と、声がして抱きつかれた。  同じクラスの麻衣(マイ)だ。 「おはよ! いい朝だねぇ!」 と、葵は答えた。  すると、麻衣が、内緒話をするように、 「知ってる?隣の学校のイケメン…」 と、聞いてきた。   葵は、首を傾げて、 「イヤ、知らない」 と答えると、 「あっ、ごめん、疎い葵に聞いた私がバカだったわ」 と麻衣が謝ってきた。 『どういう事よ!』と思ったが、考えると男の子に興味がないのは、自覚していたので、 『納得…』と、すぐに葵は思っていた。  そこに、麻衣と同じように仲の良い陽子(ヨウコ)がやってきて、 「おはよー!隣の学校に現れたイケメンの話聞いたぁ?」 と普通の声で聞いてきた。  麻衣が、 「ちょっと!皆が興味持ったら困るでしょ!」 と陽子に顔を近づけ話すと、 「イケメンは皆で共有しなきゃ」 と、陽子はニヤニヤ笑いながら言葉を返した。 「で〜、どんな人なの?」 と、興味は無いけど、とりあえず葵は聞いてみた。 「なんか、夏休み前に、一度だけ学校に来たらしいんだけど、見かけた女子が授業にならなかったらしいよ!」 「あと、うちの学校の生徒も、門の近くで見かけたらしいんだけど、かわいい系のいい男らしいよ!」 と、陽子が興奮しながら話した。 「でね、その人、なんと、二学期からのイレギュラーの入学だって〜!」 と陽子がはしゃぎながら話すのを、葵はぼーっと見つめたいた。  はしゃぐ陽子と麻衣は、 「今日会えるかも! やだぁ!」 と、手を握り合って飛び上がっていた。  その横で葵は、 「まさか…光?」 と自問自答していた。 そして、 「学校! 遅れるよ!」 と、麻衣が、時計を見て焦る声を出したおかげで、葵も我に返り、急いで学校へと走り出した。  休み時間、各教室でソワソワしている女のコが数人いるようで、うわさ話も共有なのか、『今日は来ないらしい』と、陽子たちの耳にも情報が入ってきた。 「あ〜ぁ、見たかったぁ」 と陽子は隣の学校を見ながら呟いた。 「うち来れば見れるよ」 と、言いたいのを、葵は堪え黙っていた。 「どんなイケメンだと思う?」 と陽子は、麻衣と葵に聞いた。 「かわいい系って聞いたけど、近寄りがたかったって話も聞いたから、実はクールな大人系?」 と麻衣が答えた。   思わず葵は、 『クールな子供系です』 と、心の中で突っ込んでいた。  その日の帰り道、一人葵は考えていた。 『光と一緒に学校行きたかったけど…、噂になるのは私より光が困るかもな〜』  …と。  光と学校へ一緒に行ける日を楽しみにしていた葵は、少し沈む気持ちを抱えたまま、新居へと帰っていった。
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