登校する前

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登校する前

 葵は、始業式の夜、香の部屋で二人で話していた。 「なんか、光がイケメンらしいって騒がれてて…」 と葵が話し出すと、香は、 「あら、いいじゃない」 と答えた。   その返事を聞いて、 「いや、良くないでしょ」 「怖がったらどうするの?」 「あの感じだと、数十人は押し寄せてくるよ、キャラ濃いめの女子が」 と、葵が答えると、 「それは困るわね…」 と、香も口元に手をやり、悩み始めた。   「じゃあ、先生に明日相談して決めるわ」 と香が言ってきたので、葵はホッとした様子で部屋を出ようとした。  すると香は、 「なんか、葵の方が光の保護者みたいね」 と笑った。  それを聞いて、葵はじろっと香をみて、ドアを閉めた。 『誰のせいよ!』 と心の中で思いながら。  2階に行くと、ドアを開けてプレイルームでトレーニングをしている光が見えた。  葵がソファに座って光を見ていても、光は気にする事なくトレーニングを続けていた。  しばらくして、水を飲みに起き上がる光を見て、 「ねぇ、学校登校したい?」 と葵は聞いてみた。  すると、光の筆記のために付けた黒板になる壁にチョークで『分からない』と書いた。  「じゃあ、メールとかで先生にちょっと慣れた頃行きなよ」 と葵が光に伝えると、光は頷いた。  葵は、 『その頃になれば騒ぎも落ち着くはず…』  と思っていた。  2ヶ月ほど経った夜、夕飯の後、香が葵と光をリビングに呼び出した。 「葵、光ね、明日登校することになったの」 と、香は葵を見て言った。 「初めての登校だし、葵の話してくれた事も心配だから、先生と話して、一時間目の授業中に登校って形にして、帰りもお昼前に帰るわ」 と続けた。  葵は心配そうな顔で光を見た。  光は『大丈夫』という目で葵を見つめて頷いた。 「光が大丈夫ならいいけど…」 と言いながらも、葵は心配で仕方なかった。  
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