初めての携帯電話

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初めての携帯電話

初登校の帰る道中、香と光は携帯ショップに寄り、光用の携帯電話を買った。 「これ、あなたの携帯よ」 「話せなくても、メールが好きな時に出来るからね」 と香は言いながら、携帯電話を光に手渡した。  光は、初めて触る携帯電話をじっと見ていた。  使ってる人は見ていても、触った事が無かったのだ。  光は帰ってきてから、自分の部屋に入ったまま出てこなかった。  携帯電話を触るのに夢中になっていた。  葵が帰って来て、 「光、どうだったの?」 「ずっと気になってたんですけど!!」 と、怒り気味で香に詰め寄った。 「楽しかったそうよ〜」 「もう、心配症なんだから」 と、香は呆れた口調で言葉を返した。  葵はムッとしながら、 「お母さんが心配しなさすぎなの!」 「…あれ? 光は?」 と、いつもなら出迎えてくれる光がいない事に気付いた。 「あ〜、光ね、今日携帯電話を買ってあげたから、今夢中になって触ってるわ」 と、香は2階に目をやりながら答えた。  葵は不満そうに、 「ふう〜ん…」 と言って、そのまま二階へ上がっていった。 『コンコン』 と、ノックして光の部屋へ入る葵。  見ると、ベッドに座って、説明書を見ながら携帯電話を触る光の姿があった。 「ただいま!」 葵は、光に気付いてほしくて強めに言った。  光は顔を上げ頷くと、また携帯電話を触りだした。  葵が光の隣に座った。  すると、光が携帯電話を差し出してきた。 「えっ?」  葵が声を上げると、光は説明書を差し出してきた。  見るとそこには『電話帳への登録の仕方』と書いてあった。 「あっ、私の番号を登録したいんだ!」 と葵は嬉しくなった。  すぐに自分の携帯を出し、光の携帯電話を登録して、メールを作成して送信した。 『私のメールアドレスです 葵』 と書いたメールが、光の携帯電話に届いた。  光はそのメールを開き、説明書を見ながらメールを作成すると、葵へ送った。  葵がメールを見ると、 『ぼくのメールアドレスです ひかる』 と書かれたメールが送られてきた。  葵は、クスッと笑いながら、 「漢字変換はこうだよ」 と、光に教えた。  その後、香のアドレスと小林のアドレスを登録して、二人にもメールを送った。  その届いたメールを見て、香も小林もすごく嬉しかった。  初めて出会った日を思い出し、光の変化を心から喜んでいた。  そして、香は思った。 「光の祖父母にも、今の光を見せてあげたい」 と。  もう和田が自宅へ戻っていることは、警察から聞いていた。  時々、和田の様子を教えてもらっていたのだ。 「祖父母には会わせたいけど…難しいかなぁ…」 と、香は思っていた。  その時、小林から電話が来た。 「もしもし、お店で何かあったの?」 ほとんど連絡の無かった小林からの連絡に少し不安げに香は問いかけた。  すると、 「光からメールが来たんです!」 「俺、もう嬉しくて嬉しくて…」 と、興奮気味の小林の声に香は、ホッとした。 「それでですねぇ…、言おうか悩んだんですが…」 「少し前に和田が来て暴れてったんです…。」 と、小林が言いづらそうに話だし、 「息子を返せ!と叫んでて…」 「光が学校へ行けるようになったら嬉しいんですが、もし見つかったら…と考えると…」 「ダリアからは離れてるから大丈夫だと思うんですが、少し心配になりまして…」 と、香に伝えた。  香は、少し黙ってしまった。   そして、   「お店の子達は大丈夫だった?」 「また来たら教えて、あと来たらすぐに警察を呼んでね」 とお願いして、電話を切った。 「どうしたらいいのかしら…」 と、香はひとり悩んだ。  葵にはとても言えない。  心配で外へ出るなと光に言いそうだ…。  光の行動を制限したくなかった。  もう…誰にも…。
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