クリスマス

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クリスマス

 あれから、光の学校登校も回数を重ねる毎に、周りの生徒たちも徐々に落ち着きを取り戻し、チラチラ見る人はいるが、光が一人で登校しても押しかけてくる女のコは居なかった。  時折、勇気を出して、告白してくる子がいたが、光が無表情で無言なため、すぐに断られたと思い、走り去る子が続いたせいで、 『女のコに興味が無い』 と思い込み、女の子達は眺めるだけになっていた。  そして、冬休みを迎えた。 「クリスマスケーキ、何がいい?」 と、葵は隣でテレビを観ている光に聞いた。 『何があるか分からない』 と光がメールで答えた。  葵は、携帯の画面にいくつかのケーキの写真を出して、光にそれを見せながら、 「こんなんだよ〜!」 と、葵は答えた。  すると、光は一つのケーキに目が釘付けになった。  葵は光の視線の先のケーキに気付いた。 「これ?」 と葵が指差すと、光は頷いた。  それは、チョコレートで作られた『ブッシュドノエル』だった。 『確かに、普段は見かけないかも…』 と葵も思った。   そして、 「じゃあ、これ買おう!」 と、近所のケーキ屋さんに予約をした。 「あと、プレゼント何がいい?」 と、葵が聞くと、光は怪訝な顔をして、 『プレゼントって?』 と、メールで聞いてきた。  「サンタさんにお願いすると貰えるんだよ」 と葵は言いながら、ふと思いつき、 「そうだ! サンタさんに手紙を書こう!」 と言って、便箋を部屋の棚から取り出し、光に渡した。  光はすごく悩んで、しばらくして書いた便箋を葵に渡した。   葵はその便箋を見て困った。   そこには、 『葵の欲しいものをください』 と書いてあった。  「私の欲しい物じゃ駄目なの! 光の欲しい物じゃないと!」 と葵が伝えると、 『これがそうだ』 と言うように、その紙を指差した。  葵は諦めた。 「仕方ない…、光が喜ぶかもってのを考えるかぁ…」 と思いながら。  葵は悩んだ末、光の好きなパステルブルーのマフラーを買った。   そして、クリスマスの夜に渡そうと思っていた。  クリスマスで賑わう街の中にあるダリアでは、お客のいない夕方にもかかわらず、香がカウンターにいた。  昨日のイブとクリスマスの今日は、お客が多いため、ヘルプで来ていて、今開店準備をしつつ、売上の様子をチェックしていた。 『やっぱり、私がいなくても大丈夫ね』 と、少し寂しく思いながらも安心していた。  一方、その時間の葵と光はダリアに向かっていた。  というより、ダリアの上の階の小林の家に行くためだ。 「クリスマスケーキは大切な人と食べるんだよ」 と葵が光に伝えると、 『小林君と航君も大切』 と、光はメールで伝えてきた。   なので、 「じゃあ、二人にケーキ持ってこうか? 内緒で持ってったら驚くよね!」 と光に伝えると、光も頷いた。 そんな二人は、仕事前の小林にも会いたくて、急いでケーキを買ってダリアのあるビルへと向かった。
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